インタビュー|小さな一歩を大きな一歩へ。地球にも自分にもやさしいライフスタイルで、持続可能な世界をつくりたい 〜 いわの なつみさん


小さな一歩を大きな一歩へ。
人にも地球にも優しいライフスタイルで持続可能な世界をつくりたい

デザイナー・手作りアクセサリーブランド「森のピアス」代表・エコグループ「エコフレ月島」代表/いわの なつみさん

なつみさんは、9歳の女の子と5歳の男の子のママ。子育てをする中で、人にも地球にも優しいライフスタイルに目覚め、デザイナーとして働きながら、エコグループ「エコフレ月島」の代表としてイベント開催や情報発信とマルチに活躍しています。そんな彼女ですが、「私なんかが声を上げたところで耳を傾けてくれる人っているの?」と感じていた時期もあったと語ります。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。

動き出さなきゃ。私の背中を押した「言葉」「映画」「人」との出会い

― あなたにとっての人生の転機は?

「本当はやりたいこと、あるんじゃない?」という友人からの一言で、環境問題に取り組みたい気持ちを思い出したことです。

第1子の長女出産後、24時間子どもと向き合う育児に疲れきった私は、生後5ヶ月で娘を保育園に預け、夫の会社からデザインの仕事を請けるようにしました。子どもが生まれたら専業主婦になりたい、と思っていた私が(笑)。それでも慣れない育児ライフによる神経の高ぶりが収まらず、月1回のペースで模様替えをして自分を保つ日々。そんなとき、家づくりのプロから「天然建材を取り入れた方がよい」と指摘され、すぐにフローリングを無垢材に変えました。それが大正解。自然素材に包まれたことで心が安らぎ、家が落ち着く場所となりました。無垢材の質感が子どもの豊かな感受性を育むと言われていますし、シックハウス症候群などの健康被害のリスクも抑えられ、良いことづくめです。それからはモノを買うとき、選ぶときに素材を気にするようになりました。すると、徐々に身体に良いものは地球にも優しいことが多いとわかってくるように。例えば農薬や化学肥料が土、川、海に生きる生物たちを苦しめている。無農薬野菜は、身体に良いだけでなく、地球環境と生物の多様性を守ることにも繋がるんですよね。素材選びこそ、環境に配慮したライフスタイルの第一歩でした。

デザインの仕事をしながら素材選びに気をつかう生活を続けていたある日、友人から「本当はやりたいこと、あるんじゃない?」と言われ、ハッとしました。環境問題に取り組みたい。それを思い出したんです。人間も含めた生き物に優しく、美しい自然を守ることに繋がる生活を目指したい、そう強く願うようになりました。

木や環境問題を深く理解するため、江東区の「エコリーダー養成講座」を受けました。そして、勉強を続けていたあるとき、環境のティッピングポイント(転換点:これ以上環境破壊が進むと人間の手では食い止められなくなるタイミング)が、50年、100年先ではなく、すぐそこに迫っていると知ったのです。もっとアクションを起こさないと。「やりたい」という思いを抱きつつも、何者でもない私が声を上げたところで耳を傾けてくれる人はいないかも……。家族に対する遠慮もありました。好きなことばかりしていいのか。そんなもどかしさを長く抱えていたのですが、ある映画、そして人との出会いが私を動かしました。

※江東区エコリーダー養成講座・・・持続可能な社会の実現のため、地域で積極的に環境保全活動を進めていく人材の育成を目的とした区の認定講座(「えこるっく江東 環境学習情報館」より)

映画は『みつばちと地球とわたし』(監督:岩崎靖子)です。地球環境にとって大切な役割を担うみつばちが、近年絶滅の危機に瀕している、という内容のドキュメンタリー作品でした。こんな身近なみつばちに、私たちの生活は支えられている。「あ、今やらなきゃ」と映画が私を鼓舞してくれたんです。そして、月島にある「元氣喫茶」というカフェで環境問題に対して同じように危機意識を持つ2人のママと出会いました。とても行動力のある彼女たちにグイグイ背中を押してもらい、2020年3人でエコグループ「エコフレ月島」を結成しました。2021年からは私が代表を務めています。

2021年7月の映画『みつばちと地球とわたし~ひとつぶの命に秘められた 大きな環(わ)のお話~』上映会の様子

「好きなこと」で心が満たされると、他のこともがんばれる

― その後、どんなことが変わりましたか?

好きなことにどっぷり浸かる生活になったことで、心にゆとりができ、私生活でも周りにも目を配れるようになりました。

「エコフレ月島」初めての活動は3家族でのゴミ拾いでした。プラスチックゴミで苦しむ海の生き物の写真を子どもたちに見せ、「街のゴミが雨や風で川や海に流れていっちゃうよ。今日拾ったゴミが海で苦しむ生き物を減らすことができるかもしれないね」と伝えました。するとトングを持つ子どもたちの目が宝探しをする目に変わり、イキイキとゴミを拾ってくれました。「楽しかった!またやりたい!」という声に、私たち大人の方が驚かされました。ゴミ拾いを定期的に開催しようと思っていた矢先に新型コロナウイルス。ゴミ拾いは中断し、今できることとして、地元の飲食店支援の一環でチャリティのフリーマーケットの主催や、インスタや音声ラジオでエコについて発信しています。2021年7月には、私が動き出す原動力となった映画、『みつばちと地球とわたし』の上映会を実施し、おかげさまで満席となり盛況のうちに終えることができました。

母親という立場上、自分がやりたいことのために時間を使うのに、最初はためらいがありました。小さい子がいるのに、自分のやりたいことをして……そう奇異の目で見られたり、批判されたりするんじゃないかと怖かったんです。でもそれは、私が自分に枠を作ってストップかけていただけでした。様々な出会いを経て一歩踏み出すと、自分の可能性が広がったと今では思います。好きなことに夢中になるうちに、気持ちに余裕が生まれ、家族にも優しく接することができるようになりました。おかげで、家庭が明るくなったような気もします。また同じ理由で、今まで苦手意識があったことにも前向きに取り組めるようになりました。例えば私は料理することが苦痛で仕方ないのですが(笑)、「エコフレ月島」の活動に活力を得てがんばっています。

2021年7月の映画『みつばちと地球とわたし~ひとつぶの命に秘められた 大きな環(わ)のお話~』上映会の様子

子どもから大人まで、エコ活動を身近に感じてほしい

― これから、やってみたいことはありますか?

「エコフレ月島」の活動を続けていくために、組織としての土台作りをしっかりとしたいと思っています。会社やNPO法人、形はいろいろあると思いますが、自分たちができることをより大きくしていくために、グループを成長させたいです。

今後の活動については、子ども向け、大人向け、両方の側面から、人にも地球にも優しい生活を身近に感じてもらうイベントや発信をしていくつもりです。子ども向けのものでは、簡単な言葉で環境問題について話せる人になりたいです。入試の時事問題で取り上げられるなど、環境問題は子どもたちにとっても重要なトピックになりつつあります。だけど独立した教科にはなっていないし、そもそも「環境問題」って難しくて子どもが退屈しそう。そんなときに学校やイベントへ気軽に呼んでもらえるような、敷居の低い(笑)話者になれるといいな。また、大人向けでは、マイバッグやマイボトルの次にできる活動のヒントを発信していきたいです。日々「電気をこまめに消す」生活も大切ですが、再生エネルギーの電力会社に切り替えるなど、無理せず地球のためにできることってたくさんあるんですよ!

 

― ママたちへのメッセージをお願いします。

ママも好きなことをして大丈夫です。私も躊躇(ちゅうちょ)していた時期があったけど、夫に相談してお互い助け合える環境を作ることで、踏み出せました。家族でも、話さないと伝わらないことがあるなと感じます。「好き」をいきなり形にしようと焦らず、まずはパートナーに話して環境を整えるところからスタートしてみては?

わたしと街のつながり

中央区とのかかわりは?
結婚してからずっと中央区に住んで12年。区内で3回引越しして、やっぱり中央区が好き。

木場公園でのザリガニ釣り(キャッチ&リリース)が息子のマイブーム

この街の好きなところ
魅力的な人がたくさんいるところ。
おすすめのスポット
月島にある古民家カフェ「元氣喫茶」。糀を使ったドリンクは身体に優しいし、地域コミュニティの活性化に尽力するオーナーが素敵な出会いを提供してくれる。
わたしの子育て

わたしの家族
段ボール工作が得意な夫と9歳の長女、5歳の長男。 ※2021年8月時点
長女はびびりな慎重派で、長男はコミュニケーション能力高めの昆虫バカ。ケンカもするけどとても仲がいい。

保護犬・保護猫ボランティア中の娘

子育てで大切にしていること
得意なことを伸ばしてあげたい。子どもの好きなことや興味のあることを探り、とことん追求できる環境を作る。最近でいうと、犬を飼いたいと言い出した長女。保護犬・保護猫活動のボランティアで生き物を扱う大変さと命の大切さを勉強中。活動されている方の負担となっては本末転倒なので、私は同伴してサポートしている。
子育て生活での失敗談
夫が毎週のように子どもに新しいおもちゃを買い与えていた時期があった。物を大切にすることを覚えさせたいからやめてほしいと夫に伝えると、今はダンボール製作を子どもたちと楽しむようになった。

 

■ 経歴 ■ いわの なつみさん
幼少期から生きものや美しい自然を好む。6歳から10歳まで環境先進国のオーストラリアで生活したことで、自然との共生が当たり前に。武蔵野美術大学卒業後、広告関連会社、健康食品メーカーにて営業・企画職に従事したのち結婚、2児の母となる。出産後はデザイナーとして活動するかたわら、中古マンションを国産杉と土壁でリフォームするなど、内装の素材選びへのこだわりから改めてエコに注目するように。2017年に「江東区エコリーダー養成講座」を修了、同年手作りアクセサリーブランド「森のピアス」立ち上げ。2020年、中央区のママ3人で人にも地球にも優しいエコグループ「エコフレ月島」を結成。子どもから大人まで身近でできるエコを広めるため活動中。

【エコフレ月島】
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―編集後記―

環境に配慮した選択を私生活へ、活動へ繋げてきたなつみさん。親しみやすい雰囲気で、豊富な知識を楽しく説明してくれる様子は、まるでママ友とおしゃべりしているかのよう。終始なごやかな取材で、もっとお話を聞きたかったです。「環境問題に取り組む=大変」というイメージが少なからずありましたが、地球のためにできることを楽しんで背伸びをしないなつみさんのお陰で、そのイメージが払拭(ふっしょく)されました。みなさんも楽しく始めてみては?

2021年8月取材