インタビュー|会社で男女差を感じてから努力の毎日 料理の世界が私らしくしてくれた 〜 山本 美香さん

山本美香_アイキャッチ

 

会社で男女差を感じてから努力の日々
料理の世界が私らしくしてくれた

Bari cooking class 代表 / 山本 美香 さん

アパレル業から一転、料理人として活躍している美香さん。現在は、「身体に優しい」をコンセプトにした料理教室も主宰しています。そんな美香さんに人生の転機がどのように訪れ、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて語っていただきました。

 

なんで男性ばかり評価されるの?女性だって活躍したい!

― あなたにとっての人生の転機は?

飲食業界に転職したことです。

短大卒業後はアパレル商社で働きました。当時はいわゆる「就職氷河期」で、正直なところ「どこかに入れるだけでありがたい」くらいの気持ちで就職活動をしていました。勤めた会社はレースを商材にしていて、私は洋服や下着、ハンカチなどの商品開発に携わりました。デザイナーと一緒に企画や提案をし、パーツや製品についていろいろ学べてやり甲斐はありました。

でも……その会社はいわゆる「男性社会」だったんです。仕事上の女性に対する評価が低くて。さらに育休をとったら復職しにくく、男女の扱いの差に疑問を感じるようになりました。

そんなある日、調理師資格を取れる夜間の専門学校があることを知ったんです。「食」は人生に不可欠だから料理ができることは一生の財産になる!と考え、通い始めました。日中は仕事、夜は学校という、両立生活は大変でした。でも「これからの社会は資格がきっと強みになるだろう」と考え、頑張りました。調理師免許証って、簡単に持ち運べるカードみたいなものではなく、大きい賞状なんですよ。交付する都道府県の知事の名前も載るんです。他のとはちょっと違いますよね!

資格取得へ向けての勉強は、技術が半分、座学が半分。技術は和洋中・製菓を一通り学び、盛り付けもやりました。座学も実に幅広く、調理学、食中毒はどう発生してどう対処するかといった食品衛生、経理学などがあります。経理学は一見料理に関係なさそうなのですが、オーナーになるための準備なんです。地域のリサーチ結果から売上見込みを立てたり。試験は大変でしたが、1年半で無事に資格を取れて専門学校を卒業しました。と同時に、「料理教室を開きたい」という夢が生まれました。

山本美香_beforeアパレル商社勤務時代に同僚とお昼休憩

アパレル商社は調理専門学校に通っている間に退職し、飲食店でのアルバイトを始めていました。初めて入ったのはイタリアンレストラン。その後は日本料理のお店も経験。当時、料理の世界は男性がほとんどで、女性が働くのは難しいところでした。高卒で入る男性がとても多い中、私は20代の女性。面接ではどこでも必ず結婚の予定を聞かれたほどでした。「『女性だから』という目で見られるのはもう嫌!特にベテラン男性に負けたくない!」という思いが強くなり、調理師資格を取ってからの5年間は常に2店舗かけもちで働きながら、平均睡眠2~3時間に削って、もっともっと奮闘しました。

 

料理人として役立つスキルを磨き続け 念願の料理教室を主宰

― その後、どんなことが変わりましたか?

一番大きな目標である「自分の料理教室を開きたい」へ向かってどんどん突き進みました。

調理師資格の取得を皮切りに、薬膳、介護食、スパイス、酒販、救急救命など、食や飲食店で役立つ資格を取りました。ホテルのレストランでサービス業に就いた期間もありました。オープンキッチンのお店では、キッチンスタッフもお客様から声をかけられることがあるんです。そういうときでも気持ち良い対応をしたいと思って。そこでは調理を一切せず、接客のマナーや作法を1年以上学びました。

ホテルの次の職を探しているときに出合ったお店がとても興味深く、今までと違うことを学べそう!と確信して面接を受けました。野菜をメインとしていて、野菜に自信を持っているお店です。そこでシェフとして勤務しました。シェフはフランス語で、料理長という意味です。ちなみに副料理長は「スーシェフ」と言います。嬉しいことに、次第にシェフ(料理長)として働いてほしいというお店が増えてきて、ステップアップできそうなお店は引き受けていきました。一般的に、料理に関してはオーナーよりもシェフに任されることが多く、「思ったことを形にしやすい」「提案しやすい」といったメリットがあります、一方で料理人の人材育成も担うのですが、これは非常に難しいです。一人前になるまでに最低でも5年程かかる根気がいる世界。だから辞めてしまう子も少なくないんです。

山本美香_after海で釣った魚をお店で提供することも

料理人としても料理人育成者としても、自分のお店を構えるに十分足りる自信がついたことを機に、独立しました。現在は築地にある「築地 鹿肉亭」というお店でシェフをしています。その名のとおり、鹿肉の料理がメインです。「どこどこの料理」というカテゴリーにとらわれずに「鹿肉」の魅力を伝えたくて、パートナーと一緒に開店しました。

築地には以前から仕入れでよく足を運んでいて、築地にまつわる人たちから「お肉の美味しいお店がこの辺りにほしい」と言われたんです。築地と言えば魚料理のお店がいっぱいの町ですからね。せっかくお肉のお店を開くなら、どこでも食べられるものではなくて珍しい食材を扱いたいと考え、鹿に目をつけました。鹿といえば「秋~冬(ジビエの季節)のもの」「高価」といったイメージが先行しているけれど、本当は夏が美味しくて安価でもあることを知ってほしい、身近に感じてほしい。鹿を取り扱う業者さんと知り合いだし、これは運命!と、2020年10月に立ち上げたお店です。築地にお店を構えたことで、市場が目と鼻の先になり、自分の足で市場を訪れて見て選んで仕入れる楽しみが増えました。また、築地の良さをお客さんに伝えやすいです。

山本美香_料理1
鹿肉の野菜カレー

コロナ禍でのオープンで苦労もあります。緊急事態宣言が発令されると周辺に勤める人たちの出勤回数が減って、お店的には大打撃です。でも、ランチにお弁当を販売したり、新商品を開発したり、酒販資格をとってお酒のテイクアウト販売を始めたり、今できることへ最大限に取り組んでいます。

山本美香_料理3ランチボックス
山本美香_料理4
チョコレートスコーン

料理教室も始めました。自分の料理教室をもつことは、調理師免許を取った時からの夢だったんです。2021年の6月に教室開催を決め、「思い立ったが吉日!」とばかりに3週間で準備。コンセプト、スケジュール、メニュー、名刺・チラシ作成など全てをこなし、7月初旬に「Bari cooking class」をスタートしました!コンセプトは「身体に優しい料理」です。薬膳や発酵を取り入れるとともに、化学調味料や添加物に頼らない、素材の味をしっかり味わえるお料理です。

ちょうど夏休みになるのでお子さんたちの自由研究の役に立てばと思い、「触感」「自宅で作りやすい」「舌も楽しめる」を取り入れた親子向け教室も入れています。「触感」、つまり手を使って何かをすることで脳を刺激してあげます。「粉を練る」という作業を一緒にすることで、親子のコミュニケーションにもなりますよね。「自宅で作りやすい」は、シンプルな食材でできるうどん。「舌も楽しめる」は、甘い・しょっぱい・酸っぱいといった様々な素材を1つの料理で楽しめるピザ。大人向け教室は発酵食品にしました。例えば、キムチの乳酸菌で腸内環境が向上して、身体全体に好影響を与えられたらいいなと思ってます。

山本美香_料理教室1
山本美香_料理教室2

 

「暮らしを豊かにする食」を伝えたい

― これから、やってみたいことはありますか?

料理教室を充実させたいです。最近は共働きの家庭も多くなりましたよね。仕事から帰宅して、15~30分で簡単に作れるものを紹介したいです。調理器具で1品作る間に、もう2~3品完成できちゃう料理などを。あと、参加者さんの希望を取り入れた内容でも開催したく、夢は膨らむばかりです!

― ママたちへのメッセージをお願いします。

ママも子どもも温かい手づくりのお食事を食べられたらいいなと思います。「食」は生まれてから死ぬまでのことだから、毎回は大変なので無理のない範囲で。子どもが小さいうちから家庭でとった出汁を食べさせてあげると、敏感な舌になるといわれています。市販のものも十分に美味しいですが、たまには出汁からとってあげることもオススメです。

 

わたしと街のつながり

わたしの家族
パートナーと私。住まいも仕事も中央区です。一緒にお店を切り盛りしているので、1日中一緒に過ごしてます。

中央区とのかかわりは?
長いこと銀座やその周辺で働いてきて、現在のお店は築地にあります。2021年からは月島に住んでいます。『鬼平犯科帳』好きの私にとって、登場する月島に住めて光栄です。

山本美香_中央区

この街の好きなところ
住んでいる月島は、平屋と民家という新旧の町並みが調和していて好きです。区の政策も良いと思います。子育てや高齢者など、福祉に力を入れていることが伝わってきます。
おすすめのスポット
リバーシティの川沿いです。一言でいうと「綺麗」。桜の季節は美しい、お散歩をすれば眺めが良い、夜景も素晴らしいです。都会だけれど静かなときを過ごせます。

 

■ 経歴 ■ 山本 美香(やまもと みか)さん
 短大卒業後はアパレル商社に8年勤務。働きながら国家資格の調理師免許を取得し、将来は料理教室主催を胸に掲げて本格的に料理の道へ。シェフ(料理長)としての経験も積んで独立。2020年10月にパートナーと共に「築地 鹿肉亭」をオープン。2021年7月には料理教室「Bari cooking class」を開講

 

Bari cooking class LINE
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―編集後記―

一般でいう「就職氷河期」「男性社会」を経験した美香さんのお話はとても力強く、エネルギーに満ちていました。一方で、本編では触れませんでしたがハンドメイドも得意で、トップ画像のユニフォーム襟元につけている苺のピンバッジは、美香さんの手づくりという可愛らしい一面も。そんな美香さんの、さらなる夢の実現を楽しみにしています。

2021年7月取材