インタビュー|理想と現実の落差を痛感したから今がある。英語とダンスを子ども達に伝えたい 〜 七田 翔子さん

七田翔子

スキルを活かせるだけじゃ満足できなかった
「楽しい」を感じられる仕事がしたい

バイヤー・キッズダンスインストラクター / 七田 翔子(しちだ しょうこ)さん

翔子さんは、5歳の女の子と3歳の男の子のママ。
父の両親は日本人と中国人、母は中国人なので彼女は日本語と中国語で育ち、学生時代には英語も習得してトリリンガル(3​つの言語で話せる能力を持つ人)に。そのことが今の仕事に繋がっています。仕事での挫折と身体の不調で人生最大の落ち込みを経験した翔子さんが、苦しかった過去から希望に満ちた未来まで赤裸々に語ってくれました。

 

大学で経験したグローバルな活動を社会で活かしたい、でも現実は違った

― あなたにとっての人生の転機は?

社会人デビューした職場を離れ、やり甲斐を感じる職に就いたことです。

生まれも育ちも兵庫県ですが、母が中国出身という環境で育ったので、小・中の9年間は神戸の華僑(中国国籍を持つ在外中国人)の学校に通いました。学校生活は中国語、普段の生活はおもに日本語を使っていたので、自然と二ヵ国語を話せるようになりました。英語に興味を持ったのは小6のとき。歌って踊るBackstreet Boys(米・フロリダを拠点に1993年結成された男性アイドルグループ)がすごくかっこよくて。アメリカのグループだから歌詞は英語。その英語の歌詞の意味を知りたくて、自分で勉強し始めたんです。中学生で英検2級を取得できるまでになりました。ダンスももちろん彼らの影響です。中学校では中国舞踊部に所属していました。校内イベントでの発表も楽しかったです。

英語が得意になり、英語学習に特化した高校に進学。受験科目も英語論文、リスニング、ライティング、スピーキング面接、全て英語でした。大学の受験も英語の小論文と面接を経て、環境・国際・経済を学ぶ「総合政策学部」に進学。大学生活は、忙しいけれどとても充実した日々でした。

高校生による植林ボランティアキャンプの引率スタッフとしてマレーシアに行ったり、2ヶ月間ロサンゼルスでビジネスセミナーを受けたり、中国語をレベルアップさせたくて1年間上海に交換留学したり、たくさんの海外での学びの機会を得ました。ビジネスセミナーに参加するには選考があったのですが、これが印象的でした。英語のレジメ、アウトソーシングスキルとか、「最高のプロポーズのシナリオを書きなさい」というのもあって……まだ大学生ですよ?(笑)ビジネスに必要な発想力が試されているんですよね。そんな驚きの内容もありましたが、100人以上の応募者から選ばれた24人に入れたんです!また、4年間ダンスサークルに所属してダンス活動も続けました。

大学卒業後は、大阪にある中国専門商社に就職。日本語と中国語ができるということで、メーカーさんのアテンドで中国の工場へ商談にも行きました。勤めていた会社はレアメタルやリチウム電池など理系商材を扱う貿易会社で、商談で元素記号が出てきたんです!しかも学校の授業で習っていないような記号で……。専門知識がないから踏み込んだ交渉ができず、「自分は役に立てていない」と苦しくなってしまいました。社会では、語学だけではなく知識も必要であることを身を持って学べたんですけれどね。また、自分の見えないところで物を動かす仕事よりも、目に見える仕事もしてみたいとも思うようになりました。体調を崩したこともあり2年で退職し、1年間休んだのですが、この頃が人生の最大の低迷期でしたね。

実は、就職からまもなくして生理周期が非常に長くなってしまったんです。私は元々長めの周期で、医師から卵胞の成長がゆっくりなためだと言われていました。体質だから仕方ないし、私にとっては2~3ヶ月でも定期的だったので、特に問題視してきませんでした。ところが、働き始めてからはその期間が半年ほどに開いてしまい、不順が目立つようになったんです。にもかかわらず、当時体調を崩していたことなどから「精神的な要因だろう」と自分で思い込んで、特に治療はしませんでした。退職してストレスから解放されたら生理不順が治ると考えていたんですが、止まったままで……心配になり受診しました。

受診の結果、卵巣の機能やホルモン分泌の低下が原因で周期がかなり長いのが特徴の「稀発月経」でした。私の場合、元々排卵のタイミングが分かりにくいところに無排卵の期間がさらに長くなってしまい、ホルモンの数値もかなり低いことから、妊娠しにくい状態でした。医師に将来的に妊娠を希望していると伝えると、ホルモン数値・生理周期・子宮の状態・精神状態から総合的に判断して「ホルモン注射をしても難しい」、そして「妊娠は無理」と。当時の私はまだ20代前半で、彼氏は将来的に子どもが欲しいと考えていた人でしたから、もうものすごく落ち込みました。

そんな頃、大阪に住む私へ、東京の知り合いから仕事の誘いの声がかかったんです。中古ブランドショップの会社で、海外への発送や外国人客の接客があり、語学を活かせる、実際に物に触れられる物流の仕事ができる、彼氏も転勤して東京で働いている……条件面を考えても断る理由がありませんでした。

七田翔子_Before
東京で就職した頃

 

この目で見て実感できる、それが私のやり甲斐

― その後、どんなことが変わりましたか?

転職して「自分にとって楽しい仕事とは何か」をつかむことができました。

お声がけいただいた東京の会社に就職を決め、2013年から働き始めました。3ヵ国語を話せるおかげで即戦力になりました。中古ブランド品についての知識はゼロからのスタートでしたが、海外との発送やりとり、店舗での海外観光客の接客と、とにかく実際に「見て触って」仕事を覚えられるのが楽しかったです。当時の中国人観光客の“爆買い”ブームのおかげもあり会社は急成長、あまりの忙しさに休みはほぼありませんでした。だから、あいかわらず生理が止まっていることについても過労のせいだと思っていました。

そんな2015年のある日、彼氏が私の異変に気付いたんです。自分では全く分からなかったのですが、彼氏は何かが違うと感じ、受診を促されて病院に行ってみると、妊娠3ヶ月でした。大阪で「妊娠は無理」とキッパリ言われていたので、本当に驚いたし、喜びもありました。でも、体質的に妊娠初期において不安があり、安定期(一般に、妊娠5ヵ月に入った頃を指す)に入るまで結婚や両親への妊娠の報告は待つことにしました。無事に安定期に入ったのですが、休みがない仕事環境は変えてもらえなかったので、退職を決めました。これが私が独立開業をしたきっかけです。退職前に知り合った海外バイヤーの専属アシスタントとして、国内仕入を代行する仕事を始めました。無理なく働き、出産を迎え、産後は生理が1ヶ月サイクルで来るようになり、2人目にも恵まれました。その後は仕事が多忙となり、ホルモンバランスが崩れてイライラが増えてしまいました。ときには処方薬に助けてもらうこともありました。

とても忙しかった仕事ですが、2020年春の緊急事態宣言以降は状況が一変しました。毎月来ていた海外バイヤーが来日できなくなってしまい、仕入れた商品はずっと私の手元に。同年秋にビジネストラック(必要な手続きを経て認められた人が、入国後14日間の待機期間中も行動範囲を限定した形でビジネス活動ができる制度)で出国が認められ、ロンドンで商品を渡すことはできたのですが、到着後すぐにロンドンがロックダウンに入ってしまい、商談や仕入は全て即キャンセルに。もたもたしていると私自身が帰国できなくなり、幼い子どもたちといつ会えるかわからない……という不安が頭をよぎりました。なんとか翌日の便で帰国できたので本当に良かったです。

七田翔子_After
ロンドンのタワーブリッジ(この撮影直後にロックダウン)

独立してからもう1つ始めたのが、幼児向けの英語のダンススクールです。コロナでバイヤーの仕事が激減し、またホルモンバランスを崩して感情をコントロールできなくなってしまい、気晴らしに何かしたいと思ったんです。「子どもの頃の将来の夢は幼稚園の先生」「英語とダンスができる」「子どもが好き」から思い付いたのが、「ダンス×イングリッシュ=ダンシングリッシュ!」でした。

私の子どもの習い事にもなるし絶対に始めたいと思い、夫に相談。周辺にあまりない分野だったので夫も背中を押してくれて、2020年5月に開講しました。前の月にオープンしたばかりの託児所の「ママズスマイル」さんと、新規開業同士で協力し、まずはオンラインで無料で開催。6月からは対面でやっています。子どもたちが本当に可愛くて、とっても楽しいんです。2歳や3歳の子が多いのですが、初めてのナンバーでも積極的に踊るんですよ。単発で参加しやすいように、振り付けは1レッスンで完結。だから覚える時間は短いのですが、私の振り付けで楽しそうに踊ってくれるんです。(動画を見せてくれながら)ほら、めちゃめちゃ可愛くないですか!?私のスキルをMAXに活かせる仕事になりました。また、キッズカルチャースクールの「スマイルキッズラボ」さんで小学生向けクラスを持てたり、子育てコミュニティ施設の「グロースリンク」さんではママヨガとのコラボレッスンを毎月開催していて、活動の場所が広がっているのも嬉しいです。

こんな風に充実している一方で、大変になった面もあります。長女は幼稚園で長男は保育園のため、送迎がバラバラ。バイヤーの仕事、ダンス、PTA、やることがいっぱい。だから寝る時間が減りました。子どもに寂しい思いをさせていないかなと心配になるときもあります。夫もすねました(笑)。

七田翔子_After
ダンシングリッシュのレッスン風景

 

スキルを増やして、活かして、活動分野を広げたい

― これから、やってみたいことはありますか?

3つあります。

① バイヤーとしては、海外出張して仕入れをしたいです。
② 中央区は中国人が多いので、中国語のダンスレッスンもしたいです。自分のスタジオも持ちたいですね!
③ 子どもの目標ややる気、考える力を引き出せる「チャイルドコーチング」を勉強中で、7月に資格を取りたいです。そうしたらもっといいアドバイスを、ママたちや生徒にできると思うんです。(取材は2021年6月)

― ママたちへのメッセージをお願いします。

忙しいママが多いですよね。仕事や子育てに追われていても、自分の好きなことも生活に取り入れられるといいですね。心のバランスを取るんです。自分のバランスが崩れると人のバランスも崩してしまうと思うんです。イライラしてしまって、相手を巻き込んでしまったり。仕事や家事・子育ても大事。でも、自分のことも大事。良いバランスを築いていけるといいなと思います。

 

わたしと街のつながり

この街とのかかわりは?
妊娠を機に中央区に引っ越してきました。当時夫が勤務していた新川に近く、仕事で中古品を仕入れることが多い銀座に近いという条件で物件を探した結果、新富に。住み始めて6年ほどになります。


七田翔子_水谷橋公園
水谷橋公園

この街の好きなところ
街も人も落ち着いた雰囲気で好きです。心に余裕があって、人に優しい印象です。大阪にいたときは、東京の人、特に都心の人は冷たいイメージだったんです。でも実際は全然違いますね!本当にごめんなさい。
おすすめのスポット
「GINZA SIX」の屋上は、中央区を一望できて、人が少なくて、子連れでも入れて、水が流れる床のゾーンもあって、広くてお散歩にいいですよ。水谷橋公園もオススメです。木のクイズがあって学びもあるし、ランチを持って行ってピクニックもできます。
 
わたしの子育て

わたしの家族
長女(5歳/2016年生まれ)、長男(3歳/2018年生まれ)、夫(外資系コンサル/在宅ワーク)と私の4人家族。(2021年6月時点)

長女は演技派。うそをつくようになり、賢いです。
長男は最近イヤイヤ期が落ち着いてきました。頭が重くてよく転びます(汗)。
夫は子育てに積極的で、なんでもできる良夫賢父!二人三脚で仕事も子育ても共に歩んでいる最高のパートナーです!

七田翔子_子育て
子どもたちによるヘアメイク中

子育てで大切にしていること
子どもたちのモチベーションを上げてます。そのために「声がけ」に気をつけてます。青野菜が嫌いだったのですが、「大人になってみない?」の一言でノリノリになったり、「好きなカマボコを入れてみない?」と誘ったら、実践して完食できたんです。恐竜が好きなので「恐竜みたいに強くなるよ!」の声がけで、嫌なことを克服できたり。その時に合う言葉を考えるので、親はけっこう頭を使って疲れますけどね(笑)。
子育て生活での失敗談
娘はフリフリの服が好き、お化粧が好き。私と趣味が全く違い、私の母に似て想定外。私が用意する服は着てくれないんです。原因は、母に服を買ってもらい過ぎたのだと……。親に頼り過ぎてしまいました。

 

■ 経歴 ■ 七田 翔子(しちた しょうこ)さん
 兵庫県にて、日本人の父と中国人の母の間に生まれる。日本語と中国語の他、独学で始めた英語も学生時代にマスター。大学で環境・国際・経済の分野を専攻し、海外でボランティアの引率スタッフやビジネスセミナー参加などの経験も積む。小6からダンス続けているダンスと英語力を活かし、英語のダンススクールを開講。現在は語学スキルを活かして、海外向け中古ブランド品のバイヤーを勤めながら、キッズダンスインストラクターとしても精力的に活動中。

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―編集後記―

レッスンを受けている子どもたちのことを何度も「本当に可愛い」と嬉しそうに話してくれた翔子さん。笑顔がとても印象的でした。終始積極的に語る姿からは、コロナ禍の逆境の中でも新しいことに取り組む活動力を感じました。ママとしては、自己肯定感を高める子どもたちへの声がけも参考になります!