インタビュー|カンボジアで出会った、不動産事業の可能性。 私にもできるかもしれない!と踏み出した 〜尾藤 弘子さん


カンボジアで出会った
、不動産事業の可能性。
私にもできるかもしれない!と踏み出した。

アウルプロパティ代表/尾藤弘子(びとうひろこ)さん

弘子さんは、中央区勝どき在住の、11歳の女の子のママ。大学卒業後に不動産会社に就職しますが、激務により一度体調を崩してしまいます。その後、派遣社員の経験や異業界への転職を経て、カンボジアでのある出会いをきっかけに不動産ビジネスの可能性を再認識、自身の不動産会社を起業します。自分らしい仕事の形、自分らしい働き方を見つけるまで、人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。


忙しく、悩み多き会社員時代。
たまたま訪れたカンボジアでの出会いが、人生の転機になった。

― あなたにとっての人生の転機は?

カンボジアの「キリロム工科大学」に訪れたことです。大学創設者の猪塚武氏と出会い、あるプロジェクトに参加したことが、起業を決意したきっかけとなりました。

子ども時代はよくモデルルームや展示場で遊んでおり、昔から家や建物が好きでした。それに関わる仕事ならば楽しく働けそうだと思い、大学卒業後は不動産会社に就職。最初の会社では、マンション販売や、ビル管理(テナントを招致しての貸付)、ファンド用の物件の買い付け……など、不動産に関わる様々な経験をすることができました。
しかし、海外パートナーと仕事をしていた時期、時差に関係なく24時間体制で働いてしまったために、体調を崩してしまったんです。このまま同じように働いていくのは厳しいと感じました。夫にも相談し、一度生活をリセットしようと決め、そこで退職したんです。

しばらくして体調を取り戻し、もう一度フルタイムで働こうと思い、今度は派遣社員として別の不動産会社に就職したんです。しかし、その職場では派遣社員の裁量権が小さく、決まった仕事・頼まれた仕事しかできない毎日。様々な経験を思いきりしていた過去との比較もあり、いつまでも自分の成長が見込めない状況にモヤモヤ……結局、長く続けることはできませんでした。私には本当に合っていなかったんですね。その後、不動産業界から離れてみようと、ヘルスケア業界への転職もしています。

そんな時、娘の通っていた学習塾が、カンボジアでインターナショナルスクールを立ち上げるという話が。もともと、子どもには自然豊かな環境で育ってほしいと考えており、また英語教育にも力を入れたいと思っていたので、そのスクールに非常に興味を持ちました。たまたま大学時代の友人がカンボジアに住んでいたということもあり、これは何かの縁かもしれない!と、思いきってカンボジアまで見学しに行ってみたんです。

場所は、カンボジアの南西部に位置する町、キリロム。JR山手線の内側くらいの面積の、広大なリゾート地であるキリロム国立公園の中で、猪塚武さんという日本のアントレプレナー(起業家)の方が「キリロム工科大学」を創設されていました。同じ敷地内に大学があり、リゾート施設があり、インターナショナルスクールがあるという、総合学園都市です。
そこで、なんと大学の学生寮を投資用不動産として販売していたんです。学生の教育支援をしながら、家賃収入を得て資産運用ができるという、社会的価値もあるビジネスモデルに驚きました。カンボジアはドル経済で、金利も非常に高い。家賃収入をカンボジアの口座で運用できたら、出資者にもかなりのメリットですよね。これは面白いぞ!と、そのプロジェクトに営業担当として参加。その経験から、不動産事業の可能性を改めて認識したんです。

同時期に、異常なビジネスモデルで多くの不動産出資者が自己破産に陥ってしまった事件(かぼちゃの馬車事件/2018年)が世間を騒がせました。当時の私は「そもそも、なんでこんなおかしな話に騙されるんだろう……?」と不思議に思っていました。でも、私が持っている知識は不動産業界の中では当たり前のものでも、一般の方にとってはそうではないんですね。その事実に気づいたとき、「もしかしたら私にもできるかもしれない!」と思ったんです。不動産業界での経験は、私にとって大きな財産になっていました。そんな経緯から、不動産仲介業のアウルプロパティを創業しました。

ヘルスケア業界で働いていたときの一コマ


理想の不動産ビジネスの形を描きながら、
“時間リッチ”な生活を手に入れることができた。

― その後、どんなことが変わりましたか?

起業するメリットの一つに、自分の想い描いた形で仕事ができるということがあります。アウルプロパティで大切にしていることは、売主・買主の想いに最大限寄りそうこと。一般的に、不動産仲介業の仕事では、「仲介料の額=自分の評価(収益)」になリます。しかしこの仕組みだと、売主・買主のことを考えずに、仲介料を多く取ることを最優先にしがちになるんです。(事実、アメリカは、売主・買主の両者から仲介料をもらうことは利益相反になるとして許されていません。)まずは、この考え方を自分の会社では見直したいと思いました。
例えば、売主さんの希望価格より低い金額でしか売れなかった場合、仲介料を下げる。買主さんが新婚のご夫婦の場合、その他の出費が多いはずなので、少しサービスする。利益が出た際は、コロナ禍で困っている飲食店を積極的に利用する。まずは目の前の人を幸せにするために、相手の背景や事情に合わせて柔軟に、そして人間くさく動くことを大切にしています。夫からは「あまり安売りしちゃダメだよ」なんて注意されますが……(笑)。でも、絶対売れないと思われていた地方物件が、想定金額の2倍以上で売れた例もあるんですよ。売主さんや買主さんに喜んでいただけると、私も本当に嬉しいんです。

そして、起業して何よりも良かったと感じるのは、時間に余裕ができたこと。時間に拘束されているストレスがないので、毎日を心地よく過ごせています。会社員時代は毎朝決まった時間に会社に行く生活でしたが、たとえば、今日はまず8時にNHKの朝ドラを見て、そこから洗濯機を2度回して、キッチンの洗い物をして……という感じ。その日によって柔軟なスケジューリングが可能です。
会社員時代、特に娘が産まれてからは夫婦喧嘩が多かったんです。夫婦で休日の曜日がバラバラだったのですが、そうすると家族全員で一緒にいる時間を作れず、関係もちぐはぐになってしまっていたんですよね。仕事内容への不満もあり、当時は夫によく当たってしまっていました。起業によって生活スタイルも変わり、娘に対しても夫に対しても、満足のいく関わりができるようになったと思っています。

空き家活用のため、横須賀市にある衣笠戸建のDIY体験に参加


まだまだ、やってみたい事業がある。
女性だからこそ有利にチャレンジできることも!

― これから、やってみたいことはありますか?

環境に配慮したリフォーム事業を始めたいと思っています。私たちの家は、実は“本物”じゃないものばかりに囲まれていることをご存知ですか?たとえば、壁のクロスはビニールクロスですし、フローリングも無垢板ではない。そうすることで、簡単に、早く、そして安く施工できるんですね。大量生産のためには仕方ないことなのですが、やはり、より自然な住環境を追い求めていきたいと考えています。また、リフォームでは大量にゴミが出るんです。特にオフィスの場合はどんなにきれいな状態でも、リフォーム時に内装を全て剥がして原状回復することが多いんです。それでは地球に優しくないですよね。すでにあるものを活かすことにも注力しながら、ゴミを限りなく少なくできる事業に挑戦したいと思っています。環境配慮の観点で、いつかオフグリット(電力を電力会社から購入せず、自給自足する状態)の自宅にも住んでみたいですね。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

子育てをしながら、いつか起業してみたい……と考えている方へ。私は、特に女性には起業をおすすめしています。子育て中は不測の自体のオンパレードですが、自分で時間をコントロールできるようになることで、まずは圧倒的に幸福度が高まると感じています。
そして、女性が起業することの大きなメリットは、女性であるということだけで差別化になり、優位に働く業界が必ずあるということ。たとえば、日本の建築業界や土木業界では女性がほとんどいないですよね。そういった場所に女性が飛び込むだけで、まずは業界に革命が起こせると思っています。たとえ今はまだ自信がなくても、女性がまず動いてみるだけで社会が明るくなると信じています。
会社や組織に所属していてすぐに動けない、と思っている方も、まずは副業・複業をしてみる、2枚目の名刺を作ってみるのはいかがでしょうか?勇気を出して挑戦してみると、自然と周りに応援してくれる人ができ、どんどんその先へと進めるものですよ。不安に思いすぎる前に、ぜひ行動してみて下さい!

 

わたしと街のつながり

中央区とのかかわりは?
2010年から勝どきに住んでいます。職場は、以前は銀座三丁目、現在は勝どきの自宅が事務所を兼ねています。いつかシェアオフィスを運営してみたいと目論んでいます。

築地本願寺のお祭り

この街の好きなところ
一番気に入っているのは交通の便が良いところです。JR線、都営浅草線、日比谷線、銀座線、丸ノ内線など、多くの路線に自転車でアクセスできます。公園も多いので、自転車を漕いでいるだけでも気持ちいい!バスも便利で、虎ノ門や新橋にすぐにアクセスできる「TOKYO BRT」も最近運行が始まりました。
おすすめのスポット
銀座三丁目地区(歌舞伎座の裏、全体)がおすすめスポットです。いわゆるキラキラとした銀座のイメージとは異なり、昔ながらの老舗や、隠れた名店がたくさんあるんです。お気に入りは、良いバナナが入荷できないと開店しないという、バナナジュース屋さん。
わたしの子育て

わたしの家族
司法書士の夫、小学校5年生の娘の3人家族です。娘はとてもしっかり者。「ママ、ちゃんと稼いでいる?」「そのお洋服は高いから私は欲しくない!」など、特に家計に関してとても現実的に考えており、びっくりします。

友人交えて沖縄旅行した際に家族で(2018年)

子育てで大切にしていること
子どもの主体性を尊重しており、自分のことは自分で決められるようになって欲しいので、基本的には親があれこれ言わないように気をつけています。ですが、最低限の身だしなみや生活マナーについては注意しています。
子育て生活での失敗談
ストレスの多かった会社員時代、夫婦喧嘩をして私が家出したことが何回かありました。それを覚えていたのか、ある時、娘が「家出する!」と言って出て行ったことが……。幸いすぐに帰ってきたのですが、親がやることは影響するんですね。とても反省しました。

 

■ 経歴 ■ 尾藤弘子(びとうひろこ)さん
昭和53年生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、東誠不動産株式会社(現トーセイ株式会社)に入社。分譲マンション・戸建の販売、固定資産の賃貸管理、流動化不動産の売買、信託受益権向け不動産の売買に従事する。その後、同業界への転職、派遣社員としての勤務、ヘルスケア業界への転職等を経験。カンボジアのキリロム工科大学を訪れ、不動産事業の可能性を感じたたことをきっかけに、平成30年8月アウルプロパティを創業する。

 

―編集後記―

ゆったりと柔らかな雰囲気とは裏腹に、フットワークが軽く、「やってみよう!」と思ったことはどんどん実現させていく……弘子さんからは、そんなしなやかなパワフルさを感じました。不動産ビジネスをしながら、社会や環境への配慮、さらに人間らしい関わり合いを大切にされている姿が印象的でした。教育への意識も高く、日本政策学校に通われた経験もお持ちです。同じワーキングマザーとして、とても刺激を受けました!ちなみに最近は家紋にご興味があって、ご先祖の家紋を調べているとのこと。武士家系のご出身のようですよ。

 

2021年12月取材