インタビュー|深い悲しみから歩み始めた新しい道。お客様に喜びを与えられる日々に 〜 石橋にい奈さん

石橋にい奈

「命」の尊さを実感したことで芽生えた
「これからは家族のそばで働きたい」という想い

Room For Cake by Niina オーナー兼パティシエ / 石橋 にい奈 さん

にい奈さんは、小学校3年生と年少クラスの女の子のママ。ドイツで生まれ育ったことから、仕事もドイツに縁のある企業を希望。大学院卒業後に念願のドイツ系企業にて、ヘアケア商品の営業職として社会人生活がスタート。その後2回の転職を経て、2015年に自身のパティスリー「Room For Cake by Niina」をオープン。ヘアケア商品の営業から転身してパティシエに至るまでのお話や、にい奈さん流の子育てについて語っていただきました。

 

充実の日々に突如訪れた深い悲しみ、でも前を向いて歩みたい!

― あなたにとっての人生の転機は?

2014年に、家族との悲しい別れがありました。生後6ヶ月の長男が突然他界してしまったのです。とにかく悲しみに暮れる日々を送っていたのですが、そんな中でも、「幼い長女もいるし、いつまでもドンヨリしていられない。あえて忙しくして前を向いて生きていきたい」と思いました。そのことが、私の人生の転機になりました。

以前はずっと会社員として働いていて、独立したいと思ったことはありませんでした。ドイツで生まれ育ったので、仕事もドイツ系の企業で働くのが自分にとって当然の選択でした。大学院を卒業した春、念願叶ってヘンケルジャパンに就職。ヘアケア商品ブランド「シュワルツコフ」で営業を担当しました。トレンドのヘアカラーを追求しているとファッションも気になり、学び始めます。このことが、最初の転職のきっかけに。

その後、ドイツ系ファッションブランド「ジルサンダー」を扱う、ジルサンダージャパンという会社に転職しました。ここではセレクトショップへの販売や、取引先にコレクションをセールスする職を任されました。一方で、プライベートでは「Wilton(ウィルトン)」という製菓材メーカーが主催する、ケーキデコレーション教室に通い始めたんです。これが「パティシエの私」の原点。

ジルサンダージャパンは結婚を機に退職。Wiltonには通い続け、ケーキデコレーションの資格「Wiltonメソッドインストラクター」を取得しました。すると、Wiltonから「インストラクターとして働いて欲しい」というとっても嬉しいお誘いを受けたんです。驚きましたが、もちろん快諾。2009年にパティシエとしての人生がスタートしました。2012年に長女を出産。翌年にリードインストラクターが転職すると、私もWiltonと並行してそこでお手伝いをしていました。小さい子を育てながら2ヶ所で働くという多忙さはありましたが、とても充実した日々でした。

2014年に第二子の長男が誕生。週1日だけですがお手伝いにも復帰して、中央区から横須賀(神奈川県)まで通っていました。そんなある日、突然長男が体調を崩し、中央区内の病院に入院。しかし、もっと高度な医療が必要となり、中央区から離れた小児専門病院へ転院。原因がわからないまま、発症から5日で他界してしまいました。まだ生後6ヶ月、何の問題もなくただただ健やかに育っている中で訪れた突然の死。2歳の長女もいましたが、激しく落ち込む毎日でした。でもある日思い立ったんです、「いつまでもドンヨリしていられない。あえて忙しくして前を向いて歩いていきたい!」と。

石橋にい奈_ドイツ留学
ドイツ留学中のにい奈さん

 

家族のそばで、私のお店をオープン。地域や人と繋がる喜びと感謝

― その後、どんなことが変わりましたか?

大切な大切なわが子を失った悲しみが無くなることはありません。でも前に進まないといけないんです。だからこそ、あえて忙しくする道を選びました。その「忙しい」の1つの選択肢が「自分のお店を持つ」。そこには「家族に何かあったらすぐ対応できる環境」という強い思いもありました。自宅の近所に保育園がある、自宅の近所に職場がある、とにかく家族のそばにいたかったんです。そのためには「独立」しか考えられませんでした。

店舗を探し、内装を考え、内装業者を探し、打ち合わせをし、そして着工……やらないといけないことがいっぱいでした。なんとか厨房スペースの工事は終了したものの、販売スペースとエクステリアの工事がまだ決まっていませんでした。もうどうしたら良いのかわからず、自分で塗装したり、夫が装飾したりと、自分たちで店内を作り始めました。そんなある日、ふらっと覗きにきてくれた友人に事情を話したんです。そうしたら、素晴らしい業者さんを紹介してくれました。店の5周年記念グッズのデザインも、この友人がしてくれたんですよ。細かい注文にも気持ちよく応えてくれて。持つべきものは友ですね!

2015年12月、私のお店「Room For Cake by Niina」がオープンしました。嬉しかったですね。そして、それと同じ頃に第三子である次女を妊娠したんです。妊娠しながらの仕事はやっぱり大変なときもありましたけど、自分のお店だから自分のペースで動ける環境だったのは良かったです。そして無事に次女が誕生。保育園に入園するまでは、毎日ベビーカーで一緒に出勤していました。赤ちゃんもお店で1日過ごしていましたね。

そんなこんなのオープン当初でしたが、おかげ様で6年目を迎えることができました。お店として地域イベントに参加したり、近所の商店さんが材料を安く卸してくれたりと、地域との繋がりも持てるようになりました。リピーターになってくれたお客様、私のデコレーションを喜んでくださるお客様、こんなふうにお客様にも恵まれて、とても充実しています。きっと傍から見たら大変そうだと感じることもあると思うんですけど、私にとっては全てやり甲斐があるんです。

石橋にい奈_現在
2020年12月に迎えた5周年

 

皆さんのニーズに応えられる、地域に根付いたお店にしたい!

― これから、やってみたいことはありますか?

3つあります!

「10周年を目指します」
ゆっくり長く続けられる仕事環境を作っていこうと思っているので、次の区切りは10周年です。

「地域に根付いたお店」
皆さんに長く愛されるお店づくりをしていきたいと思っています。お教室を開いて「デコレーションを習いたい」という方々の声に応えたいです!あとは、男の子向け商品も増やしたいです。可愛いものは世の中にあふれているんですけど、恐竜などカッコいいデザインのものは少なくて。そういったことも含め、地域を大切にしたお店にしたいです。

「ワークライフバランスをさらに実現」
自宅、学校、保育園、父の病院、父の家。私の家族が過ごすところが近くにあっていつでも行き来できる、この環境を大切にしたいです。そして、子どものためにもすぐに身動きのとれる働き方をしていきたいです。これからの女性の働き方の1つのモデルになれたらいいなと思っています。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

「身体に気をつけて!」
体調を崩すと「母親」をできなくなってしまいますよね。なので、自分自身の身体を大切にして、健康第一でいてほしいです。

「自分の時間をもって!」
ママ自身のメンテナンスは本当に必要。私は、休みの日はトレーナーに来宅してもらい運動しています。マンションなので静かな運動に限られますが、定期的に取り組んでいます。これは個人差があると思いますが、私の場合は妊娠前から運動しているおかげか、いつもスピード出産、産後のトラブルも出産の度に少なくなっています。
掃除は週1回1時間、ハウスクリーニング業者にお願いしています。浮いた私の掃除時間は、事務仕事に充てるなど有効に使っています。自分で背負い過ぎず、時には誰かに頼っていいと思いますよ。

 

わたしと街のつながり

この街とのかかわりは?
結婚を機に中央区に住み始めました。「夫の職場の近く」「犬OK」に合致する物件が唯一湊にあるマンションだった、というのがきっかけです。その後に妊娠、この家に3人だと手狭になるので、出産前にまた近隣に引っ越しをしました。湊に数年住んで、この辺りの環境がとても気に入ったんです。いくつも公園があるし、お散歩が気持ちいいし、築地のグルメは美味しいし、銀座に近いし、週末は静かだし、都内のどこに行くにも便利です。家だけでなく、私のお店も区内の築地にあります。

石橋にい奈_親子

末っ子と町のイベントに出店

この街の好きなところ
人が温かいです。子どもが鍵を忘れて家に入れないときは、近所の人が連絡をくださり、同じマンションの友人の家で宿題などをさせてもらっています。逆に私が預かることもあります。お店で宿題をする子もいますよ。あと、魚河岸関係者さんが差し入れをくれるんです。たくさん頂いたときは、私もご近所さんに配ってます。ご近所付き合いがある町で大好きです。
おすすめのスポット
①「隅田川の河川敷」景色が広がって気持ちいいです。②「聖路加国際病院の屋上庭園」4月末頃から5月にかけて、薔薇庭園が美しいんです。③「佃大橋」子どもの習い事の送迎のときに、犬の散歩も兼ねて歩いて渡っています。空が広くて、前向きな気持ちになれます。
 
わたしの子育て

わたしの家族
夫、長女(2012年生まれ)、長男(2014年生まれ)、次女(2016年生まれ)。長男は生後6ヶ月で他界してしまいましたが、今でも大切な家族の1人です。あと、小型犬2匹も一緒に暮らしてます。2020年秋から父も同じ町内で暮らしています。一人暮らしなので近くに住んでいると安心ですし、何かあればすぐに駆けつけられるようになりました。

夫は会社員ですが、自宅での仕事が多いんです。だから、食事作りは3食夫が積極的にしてくれるんです。私はキッチンで一緒に作らせてもらえません(笑)。共働きなので、子どもの習い事の送迎は友人と協力しています。その友人も共働きなので、大人4人で交代で送迎係をやっています。なかなか良いシステムですよ。

石橋にい奈_中央区

隅田川テラスをお散歩

子育てで大切にしていること
子ども1人ずつと、1対1の時間を作ってます。習い事の送迎や保育園帰りの時間を利用して、ママを独占させてあげるんです。そうすると、ゆっくり落ち着いてコミュニケーションを取れるので、子どもが興味を持っていることに気付けたりするんです。2人同時に相手をした先には喧嘩が待っています(笑)。性格が全く違うので、喧嘩になることもしばしば。そんなときは「ママは仲良し姉妹が好きだな~」と声がけ。最後にはハグで仲直り。
子育て生活での失敗談
末っ子が生まれて間もなくお店に立っていたので、「夜はしっかり寝ておかないと」と思い、夜間はずっと添い乳でした。だからか、今でもおっぱいに執着してます(笑)。もうすぐ5歳になるんですけどね。

 

■ 経歴 ■ 石橋 にい奈(いしばし にいな)さん
 1977年ドイツ生まれ。0~3歳、7~15歳、大学在学中の1年間、計12年間をドイツで暮らす。日本の大学院を卒業後、2002年より、ヘンケルジャパン(株)にてヘアケア商品の営業を担当。2005年より、ジルサンダージャパン(株)にてアパレルのセールスを担当。会社勤務のかたわら趣味としてケーキデコレーションの教室に通う。退職後、ケーキデコレーションの資格「Wiltonメソッドインストラクター」を取得。2009年より、Wiltonケーキデコレーション教室のインストラクターを務める。2015年に独立、自身のパティスリー「Room For Cake by Niina」をオープン。デコレーションのスキルを活かしたスイーツを製造・販売している。

 

・Room For Cake by Niina
 ▶Web
 ▶Instagram
 ▶楽天市場

 

―編集後記―

通りがかる度に「アイシング可愛いな~」「私も子どもとやりたいな~」と窓を覗いていたお店。この可愛らしいお店には、お子さんやご家族への愛がいっぱいいっぱい詰め込まれていました。この温かい空間から生まれるスイーツは、きっと食べた人の心を豊かにしてくれる、そう感じました。大変なことも「楽しい」「やり甲斐」と取り組む姿は、立ち止まりそうになったママへのエールになることと思います。