インタビュー|半年間のネットカフェ生活、衣食住の”どん底”を経験。 伝統工芸品が教えてくれた人生の楽しみ方 〜橋村 舞さん


半年間のネットカフェ生活、衣食住の”どん底”を経験。
伝統工芸品が教えてくれた人生の楽しみ方

NPO法人「伝統工芸つくも神」代表理事・「KASURI CLOSET」代表・キャリアコンサルタント/橋村 舞さん

舞さんは、6歳の女の子のママ。キャリアコンサルタントとして働きながら、NPO法人の代表、手作り衣類の販売・レンタル事業の運営とマルチに活躍しています。伝統工芸と運命の出合いを果たし、人生が180°変わったといいます。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。

 

伝統工芸品を大切にすることで、自分を大切にできるように

― あなたにとっての人生の転機は?

故郷福岡の伝統工芸品・久留米絣(くるめかすり)に出合ったことです。

両親が仕事で忙しく、幼少の頃から私の世話は祖母がしてくれていました。その時の寂しさから早く自分の家族が欲しかった私は、大学卒業後すぐに結婚しました。8年間不妊治療をするも子どもに恵まれず、その後離婚。人生がどうでもよく思えてしまい、ネットカフェに半年ほど住みました。一人で家にいるのが寂しかったんです。ネットカフェから通勤し、食事は3食コンビニか外食。下着も100円ショップの使い捨てを使っていました。誰にも気遣うことのない、自分さえよければいい生活でした。だけどそんな衣食住の“どん底”から這い上がれたのは、意外にも周りの支えのおかげでした。当時の職場の上司からは「顔が怖い」と顔つきを心配され、現在の夫にも出会って大事にされ、このままだとよくないな、と少しずつ体を整えようと思いました。

その後再婚し、自然妊娠で待望の子どもを授かりました。前職で秘書をやっていた私は、それまでタイトなワンピースを好んで着ていたのですが、子育てを楽にするために衣食住の「衣」にこだわることを決めました。何を着ようか悩んだとき、私の世話をしてくれていた祖母の着物姿を思い出し、地元福岡の伝統工芸品「久留米絣」に行き着きました。綿100%で軽くて通気性がよく、使うほどに柔らかく肌に馴染む。子育てに最適だと思い、久留米絣を着て生活するようになりました。そして、私の人生は変わります。久留米絣だけでなく、他の伝統工芸品も子育てのツールとして使おうと思い立ちました。自然素材を用いる伝統工芸品は体にも地球にも優しく、さらに大切に使うことで長持ちするものが多いと気づいたからです。プラスチック製の食器を漆器に変え、土鍋で美味しいご飯を炊く。私の場合、安いものを使っていたときは、どうせ捨てる、壊れてもいいや、と物を大切にする気持ちがなかった、と今では思います。伝統工芸品を使い始めると、生活や価値観が一変しました。作り手の思いのこもった日本の良いものを大切に使うことで、自分を大切にする時間、家族を大切にする時間が増え、生活に潤いが出たんです。実は今私が愛用している久留米絣の着物は、曽祖母が祖母へ贈った75年前のもの。服がこんなに長持ちするなんて知りませんでした。振り返ると、ネットカフェに住んで毎日コンビニご飯を食べていた時期は全くエシカルな生活ではなかったですね(笑)。

そして、「伝統工芸をもっと広めたい」という思いから、職人さん向けのキャリア支援と、子どもたち向けの伝統工芸・文化教育に特化した団体を作ろうと決心。仲間を集めてNPO法人「伝統工芸つくも神」を設立しました。2019年のことです。

久留米絣アンバサダーの様子

ママだからって我慢する必要はない、そう気づいて周りに頼れるようになった

― その後、どんなことが変わりましたか?

自分が幸せじゃないと、人を幸せにできないとわかりました。

以前は祖母が私にしてくれたように、自己犠牲が当たり前だと思っていました。1回目の結婚生活では子どもがなかなかできない負い目もあり、自分に価値がないと思っていた部分もありました。
それが、久留米絣に出合い、好きなことを仕事にし始めてから変わりました。仕事である職人さんの家に行った時、男性の職人さんが家で子どもの世話をして、奥さんが外で働いている、という姿を目にしたんです。なーんだ、いいんだこれで。ママだからって我慢する必要はなかったんだ。そうして肩の力が抜けてから、一人で子育てを抱え込まなくなりました。今は地域と周りの大人に頼っています。人生一度きり。親が楽しんで幸せな姿を見せることが、家族としての子育てのあり方かな、と思います。

子どもが生まれ、好きな仕事に巡り合えたことで、自分自身の母親のことを尊敬できるようにもなりました。私の小学校最後の運動会に母は仕事で来られなかったのですが、それは仕事ではなく、趣味のエアロビの大会のためだった、と大人になってから知り衝撃を受けました(笑)。40年前の福岡の田舎で教師をしていた母が、決して裕福とは言えない家庭で経済的な制約がありつつも悲観的にならずに、自分の趣味を楽しんでいた。すごいことだなと、今、同じママになって素直に思えます。欲張りな生き方は、やったもん勝ちですよね。

久留米絣のレンタルと販売会の様子

ファッションショーに、街づくり。日本の伝統工芸・文化を広めるためにやりたいことがたくさん

― これから、やってみたいことはありますか?

日本の伝統工芸や文化を若い人たちに広めていきたいです。これは私の持論ですが、自然のものを大切にする昔ながらの生活スタイルは、自分にも優しくなれるという点で、幸福度が高いと思うんです。また、その生活スタイルって、近年注目されているSDGsや質の高い教育に繋がってくるように感じています。だから伝統を受け継ぐ橋渡しをしたいです。
そのためにやりたいことはたくさんあります。今動いているのは、ファッションショー。有名なデザイナーさんと組んで日本の伝統工芸のファンションショーを世界に発信したい。それが叶っても次から次にやりたいことが溢れてきます。大きな目標としては、日本のお城を建てたいんです(笑)。若手の職人さんへ先人の技を受け継ぐ場、海外の人が古来の日本を体験できる場。伝統の粋が集められ、そこに行けば非日常が感じられるような街づくりをしたいので、そのシンボルとしてお城を建てられるといいな。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

ご自身が抱える「辛い」「助けて」という気持ちを、周りにどんどん言って頼っていいんですよ。親としてだけでなく、一人の女性として、一個人として幸せになってほしいと思います。

わたしと街のつながり

中央区とのかかわりは?
月島エリアを中心に、久留米絣の販売やキャリアカウンセリングして3年になる。

銀座にあるお気に入りのヴィーガンレストラン「AIN SOPH.(アインソフ)」

この街の好きなところ
年齢や在住年数に関係なく、どんな人とも仲良くコミュニケーションが取れるところ。
おすすめのスポット
銀座のヴィーガンレストラン「AIN SOPH. (アインソフ)」。仕事をがんばったご褒美のカフェタイムに利用するお店。ビスコッティが絶品。
わたしの子育て

わたしの家族
会社員の夫と6歳の娘 ※2021年9月時点
娘はいつも元気いっぱいで自己主張をはっきりするタイプ。私の仕事先(職人さんの工房など)にも連れて行くことが多く、間近でいいものを見ている。3時のおやつは手作り和菓子。

手作り和菓子を食べるのが我が家の娘の日課

子育てで大切にしていること
本人の好きにさせる。親子であっても別の人格なので、痛い思いも含めて娘自身が経験することが大事。また、寂しいときや辛いときは声に出して言えるよう、承認欲求を満たすようにしている。逆に私も娘に弱さを見せて、よしよししてもらったり助けてもらったりもする。
子育て生活での失敗談
イベントで仕事に夢中になりすぎたあまり、娘がネズミ捕りの罠に捕まり、大人複数人で救出する事態に。好奇心旺盛な娘から目を離してはいけなかったと反省。

 

■ 経歴 ■ 橋村  舞(はしむら まい)さん
福岡県出身、さいたま市在住。東京都中央区を拠点に活動中。国家資格キャリアコンサルタント・キャリアカウンセラーとして、経営者や公務員、教員のキャリア相談に携わる。妊娠中に故郷の伝統工芸・久留米絣と出合い、伝統工芸品を作る職人のキャリア支援を開始。2019年NPO法人「伝統工芸つくも神」を設立。現在は、職人の困り事のサポート、伝統工芸アンバサダーの育成、学校や企業・イベントでの親子向けキャリア教育を実施。伝統工芸品をツールとして、自分を大切にする生き方を提案している。また、ママ向けキャリア相談をオンラインとオフラインで実施中。

NPO法人 伝統工芸つくも神 ホームページ
個人Twitter

 

―編集後記―

久留米絣の魅力に気づき、伝統工芸・文化に魅了された舞さん。やると決めたらところんやる、とご自身で語っていた通り、好きなものに出合ってからの過去の活動、また今後の構想の壮大さに、インタビューしながらワクワクしっぱなしでした。そんなエネルギーに溢れた舞さんでも、娘さんの前では完璧を目指さないそう。等身大のママの姿がとても素敵で、舞さんの魅力をさらに引き立たせているなと感じました。伝統工芸品、まずは一つ手に取ってみたくなりますね!

2021年9月取材