インタビュー|子育てによって拓かれたキャリアコンサルタントとして独立する道。「母親になってもキャリアの幅は狭まらない」~ 砂田 梓冴さん


子育てによって拓かれたキャリアコンサルタントとして独立する道。
「母親になってもキャリアの幅は狭まらない」

キャリアコンサルタント/砂田 梓冴(すなだ あずさ)さん

小学2年生の男の子のママである梓冴さん。現在フリーランスのキャリアコンサルタントとして、企業向けのセミナーや個人カウンセリングといった活動を行っています。3年前の独立より前は、育児にもキャリアにも葛藤を抱えていたそうです。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。

どんな経験も失敗も、捉え方次第でプラスになる

― あなたにとっての人生の転機は?

最も大きな転機は、3年前にキャリアコンサルタントとして独立をしたことです。

出産前に勤めていた株式会社リクルートで現在の夫と出会い結婚。子どもを持ちたいと望んでいたのですが、仕事が忙しかったこともあり、なかなか思うように妊娠せず。当時34歳だった私は焦りを感じ、妊活に専念しようと会社を退職しました。その後すぐに妊娠し長男を出産。生後3ヵ月ごろまでは育児に無我夢中でしたね。ところが、同じ月齢の子を持つママ友たちの話題の中心が、次第に「育休復帰」に。家族から仕事へと意識を向け始める彼女たちを、専業主婦の私はうらやましく思っていました。

同じ頃、1歳を迎えた息子の行動が少し気になり始めました。引き戸の開け閉めを繰り返したり、物を横目で追いかけたりする様子に、もしかしたら発育に問題があるのではと思ったのです。そんな不安を抱えながら情報を探す中で出合ったのが、「NPO法人子育て学協会」による「CFC(チャイルド・ファミリーコンサルタント)」という資格講座。親子の育ち合いを支援する資格です。
プログラムを通して教えられたのは「子どもにとってベストな環境は親の心が整っていること」「母親が笑顔でいられるなら外に活力を見出すことも重要」ということ。それを学んだ私は「もう一度働きたい」と再認識したんです。

知り合いに紹介してもらったIT企業で、週3日勤務の時短正社員として働くことになりました。CFCを学び終え、子育てに対する不安は少しずつ解消された一方で、仕事に対する焦燥感は残っていました。本当に自分のやりたいことは何だろう。組織に頼らず自分だけの力でチャレンジできないか。そんな気持ちが少しずつ湧き上がり、生活環境も私の心も整ったタイミングで独立をすることにしました。

キャリアコンサルタントという職業の原点にあるのは、リクルートでの仕事。リクルートで働き始めたこともまた、ターニングポイントのひとつだったと思っています。私が入社したのは、若年層向けの就労支援を行う新規部署。大学・高校卒業の資格や仕事経験のない若者の可能性を引き出し、企業とつなぐ橋渡し的なポジションとして、立ち上げから携わりました。正直最初は、社会経験のない若者に対して偏見を持っていました。しかし実際に接してみると自立心や覚悟を持つ方がとても多いことに驚きました。彼らが自分らしく働くために、私にできることは何か。そう考えたとき、きちんと専門的な知識を学び、一人ひとりの道筋を立てるサポートがしたいと思い、在職中にキャリアコンサルタントの資格を取得したんです。

そもそもリクルートという会社の仕事に惹かれたのは、採用の募集要項に書かれていた「未来をつくる事業です」というキャッチコピーがきっかけ。可能性に満ちた仕事に思えました。というのも、自分の経験上、可能性はどこに落ちているか分からないと感じていたんです。

美大を卒業したものの就職氷河期に漏れなく巻き込まれ、目指していたカラーコーディネーターの職に就けなかった私を拾ってくれたのは、医療系の人材派遣会社。営業職と派遣コーディネーターとして社会人生活をスタートしました。しかし売上は鳴かず飛ばず。やけくそで病院に飛び込むと、院長室に私の知っている絵が飾られていました。セールストークもそこそこに絵について触れると一気に会話が盛り上がり、初めて受注をもらえたんです。自分が役に立たないのではと思われる場でも、経験を活かすことができるんだと身に染みて感じました。だからリクルートでの仕事を通して、失敗をしてもいくらでもリカバーできるということを、若者たちに伝えたかったんです。

社員研修中の様子

「ダメなら辞めてもいい」という気持ちで一歩を踏み出した

― その後、どんなことが変わりましたか?

まずママ友と自分、他の子と息子を比較することがなくなりました。もちろん周囲の状況が気にならないといえば嘘になりますが、「ま、いっか」と考えられるようになったのは大きな変化です。このことは、キャリアコンサルタントという仕事に誇りを持って臨めている証拠だと思います。

もともと家事が得意ではないため、専業主婦時代は自分のことを「ダメな母親」と思い込んでいました。しかしフリーランスとなったことで、子どもに「ママはこんな仕事をしているよ」「家事はあまりできないけど、こんなことなら得意だよ」と堂々と言えるようになった。神格化していた“良い母親像”を捨て、自分ならではのスタイルを貫けるようになったと思います。

組織や経営者に対する考え方も変わりました。フリーランスとはいえ、何もかも自分で解決しなければならない状況は本当に大変。これが社員を抱える法人格となると負担も大きくなるでしょう。独立後、仕事のご依頼を通じて企業の経営層と接する機会が増え、彼らが日々悩んでいることも知りました。会社員時代は好き勝手に文句を言うこともありましたが(笑)、今となっては経営者の皆さんにリスペクトを持っています。

独立を決めたとき、仕事の見込みは一切立っていなかったため少なからず不安はありました。夫が働いていますし、生活の心配はそこまでありませんでしたが、「企業の看板のない私に仕事なんて来るのか」「どのように売り込めばいいのか」とネガティブな気分になることも。でも同時に忘れなかったのは、「1年やってダメならまた一から就活すればいいんだ」という気楽な気持ち。まずはやってみることが大事ですよね。

独立後初めての仕事は、司法書士法人を経営する社長さんから依頼された従業員向けのキャリアコンサルティングでしたが、その後は私が思い描いていた個人向けの仕事ではなく、研修講師の仕事の依頼が舞い込みました。正直、私にできるか不安ではあったのですが、思い切ってやってみることにしました。また子育て学協会とも仕事したりと、過去のつながりやリクルートでのキャリアをきっかけにオファーをいただきながら、活動を続けてこられました。色んな方々の、さまざまな変化や発見に立ち会えたこの3年間を振り返ると、あのとき一歩を踏み出して良かったと心から思いますね。

リクルート時代の進捗ボード。「ナースたけこ」が梓冴さんの愛称。メンバー同士であだ名を決め合っていたとか

目指すのは、「対話」で解決する世界

― これから、やってみたいことはありますか?

『ドラえもん』に出てくるのび太くんは、「話し合えば何とかなるよ」と要所で言うんです。この言葉こそ、私が実現したい世界。
世の中にはさまざまなひずみや偏見があるけれど、それぞれが考えや意見を交換したり、相手に対して想像力を働かせたりすれば分かり合えるはず。多様性を受け入れようという考え方が当たり前の時代になりましたが、受け入れる方法やノウハウを伝えていくことが私の役割だと思います。

とはいえ、一方的に教え込むのはあまり好きではないんです。フリーランスになって初めてセミナー講師やファシリテーターを務め、対グループの関わりはとても興味深く自分に向いていると実感していますが、講師というのはあくまで肩書き。受講者さんと対等な立場となってお互い伝え合う関係になれると、私もたくさんの学びを得られると思います。どのような立場の方に対してもフラットに、リスペクトを持って接する。私は引き出し役として、皆さんの中にある働き方や生き方に対する答えを引き出すことができたらうれしいですね。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

20代女性のキャリアカウンセリングをすることも多いのですが、彼女たちはこれからの育児と仕事の両立に不安を感じています。母親になったらキャリアが狭まるのではと考えている方も多いんです。
しかし実際には、子どもを持ってキャリアの選択肢がむしろ広がることもあります。現に私がそう。子どもの発育を心配して学んだCFCからは、自分には仕事が必要だと気が付いただけでなく、現在の仕事へも繋がっているんです。

また、子どもが新しい世界へ連れて行ってくれることもありますよね。最近JAXAに興味がある息子と一緒にいろいろと調べていると、自分の知らない世界を学ぶ楽しさを感じられます。育児と仕事の両立において、家族の協力体制や心のバランスなど整えるべきことは確かに多いです。でも子育ては、ママたちのキャリアの幅も人間の幅も広げてくれると思います。

わたしと街のつながり
江東区とのかかわりは?

豊洲に10年程住んでいます。

この街の好きなところ
実は私と出会う前に夫が購入していたマンションに住み始めた形なので、私が豊洲を選んだわけではないんです。最初は「何もない場所だな」という印象でした(笑)。でも親になり、子どもを寛容に受け入れてくれる街全体の雰囲気がとても好きになりました。湾岸の開放感だけでなく、木場・門前仲町方面に行けば下町情緒を感じられるのもいいですね。
おすすめのスポット
朝凪橋(あさなぎばし)のたもとにある、豊洲運河を眺められる遊歩道がお気に入りです。穴場スポットなのかあまり人がいないんです。早朝にコーヒーを買ってベンチに座ってボーっとするだけで癒されますよ。春には桜並木がとても綺麗です。

わたしの子育て
わたしの家族

小学2年生の男の子と夫と私の3人家族です。※2022年5月時点
息子は私に似て負けず嫌い。慎重な一面もあるため新しい環境に慣れるのに時間がかかることもありますが、心優しく誰とでも一定の距離を置きながら付き合うことができます。今は謎解きやパズルが好きみたい。

子育てで大切にしていること
「見たことある」「やったことある」という経験をなるべくたくさん積めるようサポートしています。ひとつの物事に集中することも大事ですが、今はまだ偏らせずにいろいろと体験してもらいたい。兄弟がいないからか理不尽さに打たれ弱い部分があるため、野外体験やキャンプなどの集団生活の中で揉まれて、タフな精神力を身につけてほしいです。
また思春期になったら親に相談する機会はきっと少なくなりますよね。そんなときのために、「外の師匠」探しは常にしています。体操教室や野外活動の先生でも、塾やその他習い事の先生でも、親以外に心の支えとなる存在が現れてくれると、親としては安心ですよね。
子育て生活での失敗談
数え上げればキリがありません(笑)。私は育った環境の影響で学歴至上主義が抜けきれず、子どもに対してもできないところを叱っていた時期もありました。でも私の評価を気にしたり顔色を見るようになってしまって。プロセスを見る心の余裕ができてからは、周りと比較をせず、子どものいいところに目を向けるよう意識しています。

 

■ 経歴 ■ 砂田 梓冴(すなだ あずさ)さん
女子美術大学を卒業後、人材派遣会社の営業職を経て株式会社リクルート(現:リクルートキャリア)へ入社。若年層の就職・転職支援に携わる。その後IT業界で社員研修やキャリア面談等に従事し、2019年にキャリアコンサルタントとして独立起業。現在はベンチャー・スタートアップ領域の企業を中心に、社員の「らしさ」や「関係性」に着目した研修や1on1での対話促進を通じて組織活性を実現するための支援を行う。これまでに1000名以上のキャリアコンサルティング実績を持ち、ユーモアを交えたカウンセリングや研修が個人のみならず多くの企業から好評を得ている。保有資格は、国家資格キャリアコンサルタント、CFC(チャイルド・ファミリーコンサルタント)アソシエイト、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、PSAダイバーシティファシリテータ―。

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―編集後記―

「私、誰とでも友達になっちゃうんですよ」と笑顔を見せてくれた梓冴さん。その言葉通り、初対面にもかかわらず居心地の良さを感じるインタビューとなりました。キャリアの悩みも日々の不安も自然と打ち明けたくなるような、包容力と明るさを持っています。「ママになってもキャリアは狭まらない」という言葉に、こちらも勇気をもらいました。

 

2022年5月取材