インタビュー|元「“モエヤン”の青い人」がエンタメ界に恩返し!歌手・お笑い芸人の経験を活かしボイストレーナーに 〜 漣 さや香さん

漣さや香


歌手・お笑いコンビ「モエヤン」時代の恩返しをしたい!
ボイストレーナーでエンタメ界に貢献

ボイストレーナー / 漣 さや香さん

さや香さんは1児のシングルマザー。「お笑いコンビ “モエヤン” の青い人」というとピンとくる人も多いのではないでしょうか。15年間の芸能活動を経て、40歳からは本格的にボイストレーナー*として活動しています。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。

* 発声や歌唱などの指導をする職業のこと。

 

周りからのアドバイスが、私の“得意”を気づかせてくれた

― あなたにとっての人生の転機は?

ずばり、シングルマザーになったことです。

子どもがまだ3歳だったときに離婚。「私1人で大丈夫?」という思いが、金銭面に関しては正直な気持ちでした。今は発声や歌唱の指導をするボイストレーナーとして働いていますが、じつは歌の世界に入ったのは17歳のときなんです。

「歌がうまいから受けてみたら?」と母にアジアボーカルオーディションを勧められたのがきっかけでした。小さい頃から、歌うと周りの人が喜んでくれるのが嬉しかったし、音楽が好きなこともあり受けてみることにしたんです。大阪予選から全国大会に進み、最終選考にも合格!そして東京で、1~2ヶ月間の芸能合宿に参加しました。当時は大阪の高校に通っていたのですが、その間は休学。歌とダンス漬けの生活で、勉強もしたとは思うのですが全然記憶にないほど、特訓の日々でした。学校は文化祭シーズンで、友人が送ってくれた文化祭のビデオレターを泣きながら見ましたね。高校最後の文化祭だったので、みんなと一緒にやりたかったなという思いもあって。

そんな思い出もある高校を1999年に卒業、上京してさらに歌のレッスンを積み、2000年に歌手デビューしました!ボーカリストでの活動を経て、今度はミュージカル女優として多くの舞台に立ちました。その活動の中で、後にお笑いコンビの相方となる池辺愛ちゃんに出会ったんです。

出会いはガールズミュージカルチーム「東京メッツ」。当時はそれぞれ別の事務所に所属していて、愛ちゃんは三宅裕司さん主宰の「劇団スーパー・エキセントリック・シアター」というコメディ劇団の役者だったんです。彼女はお笑いが大好きなんですよね。で、一緒にコンビを組みたいと半年間も粘り強く誘ってくれて。私は断り続けていたんですけどね(笑)。でもあまりの熱意に「やってみるか!」と、2005年6月3日にお笑いコンビ「モエヤン」を結成。まもなくして、愛ちゃんと同じ事務所に移籍しました。

コンビ結成後、自分たちで営業したり、お笑いライブのオーディションを探して受けたりと、セルフプロデュースしていました。光栄なことに「ヌーブラヤッホー」のフレーズで数々のお笑い番組に出演できるようになったんです。このフレーズは2人でハモりながら歌うのが特徴的で、私が元々歌手だったこともあり「歌が上手いコンビ」というイメージが付き、歌番組の出演も多くなって。でも実際は、愛ちゃんは歌が……(笑)。カラオケに行って特訓したこともありましたね。愛ちゃんは、聞いた音程を覚えることは得意だったんです。だから歌い方を分析して指導していきました。今思えば、これが私のボイストレーナーへの道の始まりだったのかもしれませんね!


池辺愛さん(左)と“くぼっち”こと漣さや香さん(右)

私の結婚を機に、モエヤンは2013年に解散、12月に芸能界を引退しました。翌年、ある歌手の友人から、私は歌を教えるのに向いているというアドバイスを受けたんです。同時に、ボイストレーナー募集の情報もくれました。確かに私は聞こえた音を発声で再現するのが得意だから、誰かの発声を分析して良くしていくことができるかもしれない!そう思い、採用試験を受けてみました。すると合格をいただけて、そこからピアノを買って、スケールレッスン(音感を養うための練習)のためのピアノを練習して、ボイストレーナーの道を歩み始めました。

当時、まだ仕事量は抑えた生活をしていました。夫の仕事のサポートをしながら、時々ボイストレーナー。不妊治療をしていたんです。不妊治療は身体への負担が大きくて、仕事詰めの生活だと体がきついんですよね。ホルモン治療も辛いですし。だから仕事を詰め込みすぎないようにして、ゆっくり過ごせるようにしていました。やがて子どもを授かり、2018年に女の子を出産。その後も夫が不在がちだったこともあり、仕事は増やさないまま、子どもとたっぷり一緒に過ごす生活を送りました。

しかし、後にその夫とは紆余曲折あり離婚に至りました。これを機に、ボイストレーナーとしての活動を本格化することになったのです。

 

舞台に立ってきた経験を活かしたレッスンが好評

― その後、どんなことが変わりましたか?
私1人で稼いで、娘を育てないといけない。仕事にも注力する暮らしを始めました。

元夫の仕事のサポート業務がなくなり、ボイストレーナーの仕事だけに。でもこれまでは家族を養える働き方ではなかったので、すぐにこれ一本で稼ぐのは難しかったんです。だから飲食店などの仕事も探したのですが、コロナの影響で募集情報が少なくて。私は娘がいるため夜間に働けないのと、40代ということで雇用年齢が対象外のところも多く、現実はなかなか厳しいものでしたね。職に就けませんでした。でもこの状況が「ボイストレーナーの仕事一本でやっていこう!」と腹をくくらせてくれました。

芸能界にいたときにお世話になったプロダクションへ挨拶に行ったり、インスタグラムを開設して営業活動を行ったりして、活動の場を広げていきました。今はスクールでのレッスンだけでなく、企業研修や水族館のパフォーマンスといった幅広い分野で教えています。私自身が歌手・ミュージカル女優・お笑い芸人として舞台に立っていたので、その経験を活かしたオリジナルのレッスンプログラムを組んでいるのが強みだと思います。ただ発声方法を改善するだけでなく、「ビジョンの設定」「個性の発揮」「モチベーションの維持」といった内面にも触れ、「人間開化」を体感できることを目指しているんです。営業職の人やフリーランスの方からも「相手の心をつかめる」ととても好評で、私の経験が活かせていて嬉しいですね。生徒さんの中には、茨城から都内まで時間をかけて通ってくれている人もいます。アーティストを目指している人から「今あなたに会えて良かった」と言ってもらえたのも本当に嬉しいし、求められていることを実感できて励みになっています!私はけっこう厳しさをもって指導しているので、この熱さが生徒さんの甘えを許さないみたいです(笑)。

やり甲斐があって充実しているけれど、育児も仕事も1人でやって、隙間時間に子どもの予防接種とか細かいタスクを入れて、という感じなので1日の終わりにはヘロヘロです。でも活動するにはエネルギッシュでい続けないといけないので、娘と戯れて活力を得たり、朝出かけるときはマンションのエレベーターを使わず階段で降りたりして維持してます。欲を言えば、週1で海に行きたいですね。自然からもらうエネルギーって格別だと思うんです!


ボイストレーニングのレッスン風景

 

より良いエンターテインメント作品を皆さんに届ける手助けをしたい

― これから、やってみたいことはありますか?
舞台に関わるエンターテインメント(以降エンタメ)の底上げに貢献したいです。私自身がこれまでエンタメに大きな影響を受けて生きてきました。芸能界でステージに立たせてもらえていたのもそうですし、今は舞台の歌唱指導で関わっています。これからも自分が関わることで、ひとりでも多くの役者の歌唱力が上がり、そして本領を発揮できるよう導くことができたら嬉しいです。役者の質は、その作品の質に直結します。作品の質を上げ、より良い形で世に届けて皆さんに楽しんでいただく。ボイストレーナーとして少しでもそのお手伝いをすることで、舞台・エンタメの世界に貢献していきたいです。
― ママたちへのメッセージをお願いします。
子育て中の全てのママ、毎日本当にお疲れさまです!ママが元気で笑顔でいられるために、たまにはサボって人に甘えて、自治体のサポートに頼って、1人の時間を持ったりしてバランスをとることを優先して欲しいです。家事も育児も仕事も「楽」に繋がりますように!

疲れたら私と愛ちゃんのラジオ番組「ママヤンのstand.fm」を聞いてください。ポンコツママの相方と、ナニワのオカンのトークで笑わせます!(笑)

ママヤン
ママになった元モエヤンの現在のコンビ名。2021年9月にTwitterを、10月にはラジオも開設。子育て、仕事、あそびを発信している。さか香さんは、モエヤン時の愛称「くぼっち」名義。

 

わたしと街のつながり

江東区とのかかわりは?
江東区北砂にあるにある「QUWANDS DANCE SPACE (クワンズ ダンス スペース/以降QDS)砂町銀座校」でボイストレーニングクラスのインストラクターをしてます。キッズ・中高生・大人、それぞれのクラスを受け持ってます。

砂町銀座商店街

この街の好きなところ
QDSのある「砂町銀座商店街 」をよく利用しているのですが、お店の皆さんがとてもフレンドリーなんです。ボイストレーニングクラスが開講するにあたりチラシ配りをしたときも、快く受け取ってくださったり、初対面でも世間話が弾んだり。大好きです。
おすすめのスポット
すごーく長い砂町銀座商店街です。約670mもあるんです。東京スカイツリーの高さより長いんですよ!惣菜店、喫茶店、格安アパレル店……なんでもあって楽しい!長蛇の列が絶えない焼き鳥屋の焼き鳥を食べたいのですが、仕事後は保育園のお迎え時間が迫っていて、まだ買えてないんです。
わたしの子育て

わたしの家族
2018年2月生まれの娘と私。娘は保育園に通ってます。歌が大好きでずっと歌っていて、家の中が明るいです!娘の明るさが私を支えてくれてます。


旅行で訪れた長野県にある神社

子育てで大切にしていること
「笑いを忘れない」。面白いことを言って笑い合っていたいです。いつも全力で笑わせてますよ。しんどいこともポジティブに切り替えてます。
「私しか見せられない世界を見せてあげたい」。私を母として選んでくれた娘に、私だからできることをしています。ボイストレーニングや舞台に関わること、今の私だからできることを見せながら育てています。私の母が私にそうしてくれたんです。母から英語や国際社会を教えてもらいました。

子育て生活での失敗談
いろいろ人生経験して生まれてきたんじゃないかと思うくらい、世間を理解しているような子なんです。叱ったことがないんです。ダダをこねることもなく、訴えることも正論ばかり。ある日保育園の先生に「できていることが多いとそれが当たり前の生活になり、つい褒めることを忘れてしまうから、帰ったら褒めてあげてね。」と言われてハッとしたんです。それからは褒めることを心掛けています。

 

■ 経歴 ■ 漣 さや香(さざなみ さやか)さん
1981年生まれ。17歳で「アジアボーカリストオーディション」に合格、2000年に歌手デビュー。ミュージカル女優としても活躍した後、2005年にお笑いコンビ「モエヤン」を結成。「ヌーブラヤッホー♪」というフレーズで多くの番組に出演。結婚を機に2013年に芸能界を引退、現在はボイストレーナーとして、子ども向けから企業向けの多岐に渡る分野でレッスンを提供している。


漣 さや香
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―編集後記―

「歌手もお笑い芸人もボイトレも、誰かに言われて始めたんです~」と笑いながら語っていましたが、周りの言葉を自分の人生に1つ1つ積み重ねていることが伝わってきました。そして今度はご自身の経験を活かして社会に貢献しようとしている姿がとても魅力的でした。一方で娘さんの前では笑いに注力。愛娘の歌も響く、元気で明るいご家庭が目に浮かびます。

2021年10月取材