インタビュー|殺処分される動物を助けたい。行動を起こすなら、「育児が落ち着いてから」じゃなく「育休中の今」だと思った。チャリティショップで善意の渦を巻き起こす。~荒井 羽生子さん

殺処分される動物を助けたい
行動を起こすなら、「育児が落ち着いてから」じゃなく「育休中の今」だと思った
チャリティショップで善意の渦を巻き起こす

子ども服と婦人服古着のチャリティショップオーナー/荒井 羽生子(あらい ういこ)さん

2022年6月、江東区清澄白河にオープンした子ども服と婦人服古着のチャリティショップ「Uzu charity shop(ウズ チャリティ ショップ)」。オーナーの羽生子さんは、なんと第一子の育休中にお店をオープンされたバイタリティ溢れる方です。なぜお店をオープンしたのか、オープンしてからの変化、そして今後の展望に至るまで、エネルギッシュな羽生子さんの人生の転機についてたっぷりとお伺いしました。

街の人や企業などから物品の寄付を受け付け、それらをお店で販売し、その収益の一部を社会問題の解決に役立てるお店のこと。Uzuでは、経費を除いたすべての売上を動物愛護団体に寄付しています。(Uzu charity shop Instagram参照)

 

妊娠・出産がチャリティショップオープンのきっかけに

― あなたにとっての人生の転機は?

チャリティショップをオープンするきっかけになった「妊娠・出産」だと思います。

まず、妊娠中に動物の殺処分に関する投稿をInstagramで見てしまったんです。“あと1週間で殺処分されてしまいます、里親になってくれませんか”という投稿に心を痛めても、私は動物アレルギーなので飼えない。殺処分まで“あと1週間、あと3日”ってカウントダウンされる投稿を見るのが辛かったです。でも、投稿を見ないのもなんだか違うなと感じてしまって。

それで何とかしたいと思って、本職ではSNSのマーケティングをしているので、そのスキルを活かして個人でSNSの広告を出し、動物たちの里親になってくれる人を探すことにしたんです。少額ながら自費で賄いつつ2か月くらい続けていたんですが、“自分は飼えないけど、かわいそうだからなんとかしてあげてください”ってコメントが募るばかりで。殺処分の現状を知ってもらうべきなのは事実ですが、悲しいことを拡散していくだけのやり方に疑問を感じ、違う方向で行動ができないかと思いました。

その時に思い出したのが、以前3年間住んでいたイギリスでよく利用していた「チャリティショップ」です。

現地ではチャリティショップが生活に根付いていて、みんな気軽に利用するんです。寄付先はお店によって違って、例えば子どもの貧困に関する支援、がんの研究、動物愛護など様々。もちろんボランティア精神を持って買い物に来る人もいますが、多くの人は安く、いいものが買えるという理由で利用していると思います。商品は安いし、色んなお店の選択肢があるし、いらないものを寄付することができる。それで日本でもチャリティショップで「楽しく寄付できる仕組み」ができないかなと思ったんです。

出産・育休の経験もチャリティショップオープンの後押しになりました。

開店の計画を立てても、仕事に復帰すると全然時間がないだろうなと思ったんです。育児も落ち着いて準備万端、さぁやろう!と思う頃には50歳、60歳になっているだろうなって。今、日本では年間約3万頭の犬や猫が殺処分されていて。子どもが大きくなるまで行動せずに待っていたら、その間30万頭、60万頭……と殺処分されていく。それを何もせずに見過ごすのは嫌だなって。今なら育休中で、子どもを抱っこしながらであれば時間もつくれるし移動もできるから、「行動を起こすなら今だ」と思ったんです。

子どもを産んでいなかったら、お店はオープンしていなかったと思います。子どもが生まれ、自身のこの先の時間の使い方や、子どもの将来のことを改めて考える機会が増えて、行動に移すことができた。だから、妊娠・出産が人生の転機だと思います。

明るく清潔感のある店内。壁や扉の色塗りなど、できるところは自分たちで作業したそうです。


やってみないとわからない、行動すれば世界が広がる

― その後、どんなことが変わりましたか?また、どんな気づきがありましたか?

お店をオープンしたことで、大きく二つの変化がありました。

一つ目は、社会課題がより身近に感じるようになったことです。お店のオープン後、近くに住むママ友から提案があって、母子生活支援施設と乳児院に繋がりができました。そのおかげで、今では寄付頂いたお洋服の一部をそちらの施設に寄付を行っています。

母子生活支援施設はDV被害などにあわれたママとお子さんが生活されており、同じママが大変な境遇に立たされているのを目の当たりにし、色々考えさせられました。

また、乳児院も、両親が事故でなくなってしまったお子さんもいるということも聞き、他人事ではなく、自分の子どもも万一、私たちに何かあれば、そこに係ることがあるかもしれないんだ。と急に自分事として考えるようにもなりました。

今のUzuではまだできることが少ないですが、他にどんなことができるのか、どんな支援が最適なのか、今後もう少し探っていきたいなと思っています。

二つ目は、何事もやってみないとわからないという気づきです。オープン前は、やっぱり多少マーケティングしてから開店しようかとも考えていましたが、どれくらい寄付が集まるのかは結局やってみないとわかりません。周りには「日本人には寄付する文化がないから、寄付なんて集まらないよ」と言われたこともありました。でも、現状でお店を運営できるくらいは寄付が集まっています。

元々、行動力はあるほうだと思います。というのも、考えて計画すればするほど実現するのが難しくなっていくから、考える前にやったほうがよかったという経験が多かったんです。

大学時代に、1年間韓国に留学したのですが、儒教の影響が強いことなど日本と全く異なる文化に触れて、視野が急に広がったんです。そして、もっと違う文化に触れてみたいという思いから「いつか英語圏の国にも行きたい」という夢を抱きました。念願叶って、会社を退職したタイミングで語学留学でイギリスに行きました。ただ、学生ビザだと就労できないこともあり、一瞬で貯金が無くなってしまったんです。ならば、向こうで働けるスキルをつけてからもう一度行こうと、一旦帰国しました。帰国後はデザインとWebコードを勉強して、再度イギリスへ渡航。結果として、3年間働きながらイギリスに住むことができました。

お店の商品たち。セカンドハンドとは思えないほど、状態のいいものが並んでいます。


チャリティショップの普及で、善意の渦をより広く、深く

― これからの目標はありますか?

まず大前提として、お店を継続していくことが目標です。そのために、お店の存在をもっとたくさんの方に知ってもらいたいです。あとはUzuの存在が、チャリティショップが広まる一助となり、日本にチャリティショップ自体が増えて、みんながもっと気軽に利用できるようにしたいです。それで廃棄される服が減ったり、寄付の文化が広まったりすれば嬉しいなと思います。

また、お店には気軽に立ち寄っていただきたいのですが、そこでチャリティショップや寄付について興味を持ってくださった方に、もっと深い情報をお伝えする場があるといいなと思っています。そのために、今お店の広報として主に使っているInstagramだと伝えきれない情報、例えば「寄付先はどんな団体なのか」などをnoteを使って、皆さんに発信したいなと思っています。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

お店にくるお客さまの中でも「なにかやりたい」というお声かけをいただき、お店のスペースを利用してママが作った作品の委託販売もはじめました。1人だと行動に移るのが大変だと思いますがママ同士集まれば何かできることもあるかも?ぜひ、お気軽にお話ししに来てください。

わたしと街のつながり
江東区とのかかわりは?

2021年から清澄白河に住んでいます。2022年6月に、同地に子ども服と婦人服古着のチャリティショップ「Uzu charity shop」をオープンしました。

娘と甥と一緒に、スッポンを見に清澄庭園に出かけたときの一コマ

この街の好きなところ
食べることが好きなので、個人経営のおいしいごはん屋さんが多いところです。さらにキッズフレンドリーなお店が多いことも嬉しいポイントだと思います。
おすすめのスポット
タイ料理店の「MAKIN(マキン)」はおいしいのはもちろん、店主の方が小さいお子さんを育てながらお店をやっているという共通点があったり、ご近所さんということで仲良くなり、よく家族でお邪魔しています。森下の韓国料理店「ソウル市場」もナムルやキムチがおいしいので気に入っていて、テイクアウトで利用しています。
わたしの子育て
わたしの家族

夫と1歳4ヶ月の娘、文鳥2羽と暮らしています。(※年齢は2023年1月時点)

子育てで大切にしていること
子どもが自らやろうとしていることは、できるだけ手伝わずにやらせたいと思っています。最近は服も自分で着ようとするんですよ。ちょっとだけお手伝いはしますが、なるべく自力でできるように見守っています。
子育て生活での失敗談
まだ子どもが小さくてあまりありませんが、強いて言えばお店の運営で時間が取れないこともあり、バースデーなどのイベントごとの準備をできなかったことでしょうか。

 

■ 経歴 ■ 荒井 羽生子(あらい ういこ)さん

神戸市出身。江東区在住。広告代理店でキャリアを積み、30代前半に海外で仕事をしてみたいという思いで渡英し就職。そこでチャリティショップの魅力にハマる。帰国後、日本でもチャリティショップを広めたいという思いで、育休中の2022年に自宅のある清澄白河でチャリティショップを立ち上げる。

Instagram

 

―編集後記―                            

明るく朗らかで、エネルギッシュな羽生子さん。トライアンドエラーの精神で行動していくからこそ、次にやりたいこと、やるべきことが見つかっていくのだなと感じました。次はどんな渦を巻き起こしてくれるのでしょうか、楽しみです。また、Uzuでは現在、店舗運営を手伝っていただけるボランティアスタッフを募集しているとのこと。月に一度の参加も大歓迎だそうで、詳しくは直接お問い合わせください。

2023年1月取材