眠れない中で我が子と向き合う日々
産前産後の不安な心と身体に寄り添って癒したい
マタニティ&産後ケア「Relaxen(リラクセン)」オーナー・セラピスト /小栗 千香子(おぐり ちかこ)さん
千香子さんは、10歳と7歳の女の子のママ。会社員として働いていた生活が、結婚を機に一変します。自身の産後の辛い経験から、妊産婦さんが気軽に利用できる体質改善・産前産後ケアサロンを開いて、多くの人を癒している千香子さん。
人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。
結婚を機にがらりと変わった生活。初めての東京で初めての子育て
― あなたにとっての人生の転機は?
結婚して子どもを授かり、愛知から東京へ引っ越したことです。
私は結婚願望が強い方ではなく、子どもを持つことも考えていませんでした。生まれ故郷の岐阜から愛知へ出て会社員として働いていました。また、当時付き合っていた彼は東京で働いていたので、愛知と東京の遠距離恋愛でこのまま続くんだろうなと思っていたんです。仕事では一日中パソコンに向かう日々。身体が凝り固まって辛く感じることが多く、整体やアロママッサージに通っていました。そのうち、好きが高じて自分もアロマ整体院で働きたいと思うように。スクール卒業後、自分が通っていたサロンで平日の夜や土日に働かせてもらうよ うになりました。会社勤めとサロン勤めを両立して数年経ったあるとき、彼から「子どもが欲しい」と言われ、結婚。その後妊娠し、数ヶ月後に仕事が落ち着いたのを機に東京へ引っ越しました。30代半ばにして初めての上京、しかも身重……。不安でいっぱいでした。
その後、無事出産し、子育てがスタートしたのですが……。よく知らない土地で仕事もしていない。子どもと遊んで世話をして1日が過ぎていく毎日。私、この先どうなるんだろうと鬱々(うつうつ)としていました。東京でも身体をリフレッシュできるサロンに通いたかったのですが、妊娠中は産後に来るよう言われてしまうし、産後になったら今度は赤ちゃんを連れて行けるサロンが見つかりません。子どもは長く寝てくれず自分も極度の寝不足に。24時間子どもと一緒にいるのが辛く感じ、サロンでのリフレッシュもできない中で心身ともに参って限界を感じていました。
産後うつになり悶々と過ごす日々の中、自分が産前産後にサロン難⺠になった経験 から、同じような状況にある人たちの居場所を作ろうと決意。子どもを保育園に預け、周産期女性の体について深く学 び直すため複数のスクールに通いつつ、1校のスクールを卒業したタイミングで妊産婦さんのための体質改善・産前産後ケアサロンを開業し ました。
産前産後の大変な時期を一緒に乗り越えたい
― その後、どんなことが変わりましたか?
自分のペースで働き、楽しんで生きられるようになりました。
会社員として働いていたときも仕事は好きでしたが、一日中パソコンに向き合うことは身体が辛くて一生できる仕事ではないと思っていました。また、出産と育児で眠れない日々が続き、身体が限界を迎える頃、心の限界もすぐそこまで来ていました。それがサロンを開業してからは、自分のペースで好きな仕事ができていますし、保育園に子どもを預け始めたことで「1人で子育てしなければならない」というプレッシャーから解放されました。身体が楽で心も健康になり、毎日楽しみながら生きていると実感しています。身体の健康と心の健康はセットですね。
サロンを開業してからもお客様に気づきをいただき、セラピストとしてレベルアップを図っています。産後は骨盤ケアの目的や、腰痛など体の痛みを訴えてご来店されるお客様が多く、産褥(じょく)期(一般的に、産後6~8週間までの期間を指す)の身体の使い方が良くなかったパターンが多いなと思いました。そこで産褥期からできるケアについて調べていたところ、産後の回復を目的とした「産後エステ」というケアがあることを知り、産後エステの盛んなマレーシアから講師が来日したタイミングで研修を受けました。
※産後エステとは:産後の回復が目的のケア。産後2日目から始められる回復トリートメント+薬草ケアで産褥期のうちに積極的な回復をはかり、床上げ後の育児生活を体力面&気力面の両方で軌道に乗せる。
日本でも産褥期は身体をゆっくり休ませることが推奨されていますが、「休む」という言葉の捉え方が人によって違うようです。「産後は休めました!」と言うママでも、実は赤ちゃんの沐 浴をお風呂場の床でしていたり、掃除機がけや洗濯など家事を毎日のようにしていたり(産褥期の体にはかなり負担です)。産後の身体に負担のかかっていることを気づかず にママはがんばってしまいがちですが、その時期の過ごし方がその後の育児生活に大きく影響することも少なくありません。産後は、授乳などママじゃなければできないこと以外の育児や家事はできるだけ人に任せて文字通り身体を横にして休む。そして、床上げ後の育児をスムーズにするため、できれば身体の 回復を促進させるケアを取り入れる。このことを私自身の1人目の出産のときに知っていたら、産後の鬱々とした生活がもっと違っていたんじゃないかと思います(笑)。日本の産後ママを一人でも多く助けたいと思い、現在は産後エステの施術だけでなくスクールも開講しています。産前産後の本当に大変な時期を一緒に乗り越えたくて、産後ドゥーラの資格も取りました。そして日本では産後のママとそのご家族をサポートする産後ドゥーラの方がよく知られていますが、妊婦さんのときからご家族と一緒に出産に向けて歩んでいきたいと思い、出産ドゥーラの研修も受けました。
※出産ドゥーラとは:妊娠中から(医療行為以外の)の介助、産後の赤ちゃんのお世話や家事サポートまで、妊産婦とその家族をサポートする人のこと。
出産・育児の実体験を活かしながら自分のペースで好きな仕事ができる。今の仕事は、結婚という転機があったからこそ出会えた私の天職だと思っています。
ライフステージに合わせたトータルケアを
― これから、やってみたいことはありますか?
仕事面では、おかげさまで一人では手一杯になってきたので、一緒に働いてくれるセラピストを増やしていこうと思っています。また、今は妊産婦さんのケアがメインのサロンですが、女性のライフステージに合わせた心身のトータルケアサポートを目指していくつもりです。私自身もそうですし、長く通ってくださるお客様もライフステージの変化に伴う心身の状態の変化を感じ始め、どのステージにおいても特別なケアって必要だなと感じるようになったからです。現在、妊産婦さんのお母さんや産後の期間を過ぎてからも継続的に通ってくださるママ、またそのお子さんに施術させていただく機会もあります。いろんな年齢層の方といろんなお話ができて自分の視野が広がるのも今の仕事の魅力なので、幅広いライフステージのお客様を多方面からサポートできるよう、今後も勉強を続けていきます。
プライベートでは、子どもたちと向き合う時間をもう少し増やしていきたいです。小学生なりに大変なこともあるので……仕事とのバランスをとって、家族や友人づきあいにも比重を置けるよう、工夫していこうと思っています。
― ママたちへのメッセージをお願いします。
いろんなママに接してきて思いますが、自分のことを後回しにしているママが多いと感じます。自分のために時間を割くことに躊躇(ちゅうちょ)したり、自分のお金で何かを始めたいのに家族のために諦めたり。自分のために時間やお金を遣うことに、罪悪感も後ろめたさもいらないと思います。ママが元気なら子どもも元気です!家族やお子さんと同じくらい自分のことを大切にして、自分自身の声にももっと耳を傾けてあげてくださいね。
私もママとして未熟者なので、子どものいる人生を皆さんと一緒に楽しんでいけたら嬉しいです。
わたしと街のつながり
中央区とのかかわりは?
築地エリアに2年→月島エリアに8年ほど在住。経営しているサロンも月島。
古さと新しさが混じり合っているところ。都会の便利さもあれば、商店街で声をかけてもらえるような昔ながらの温かさも感じられるため、子育てしやすい。
築地にある「あかつき公園」(保健所側とタイヤがある冒険広場に分かれている)と「築地川公園」。大きな公園が隣接していて楽しめる。未就学児なら勝どきの子育て支援施設「グロースリンク」もおすすめ。
わたしの子育て
わたしの家族
10歳(小学4年生)と7歳(小学1年生)の姉妹 ※2021年7月時点
性格は姉妹で正反対。長女は大人しくて優しく、次女は明るくて気が強い。毎日ケンカしては毎日仲直りしている(笑)。
できるだけ子どもの話をさえぎらずに聞くことを心がけている。
ある日の夕方、子どもたちから「お母さん、今日は怒ってないね」と嬉しそうに言われた。自分はそんなに毎日怒っていたのか、と衝撃の一言だった。
デスクワークの多い会社員時代に身体のメンテナンスの重要性に気づき、整体とアロマの勉強を開始。そして会社員とセラピストのダブルワークをこなす日々。その後結婚し上京。第1子出産後、周産期女性の体ケアについても学びを深めるためスクールに通い、体質改善・産前産後ケアサロンをオープン。その後も産褥期ケア、出産ドゥーラ、産後ドゥーラ、マタニティヨガなど各種研修を終了し、現在もスキルアップのため勉強中。
【Relaxen】
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―編集後記―
結婚し、新しい土地で初めての子育てを経験した千香子さん。ご自身が苦労された経験から、多くのママたちの助けとなり癒しとなるため、学びを続けるその姿は本当にまぶしく、女神のようです。仲の良いママ友のように親しみと愛情を持って接していただけるので、私もサロンにお邪魔して子育ての話(主に夫の愚痴・笑)を聞いてもらいたくなりました!
2021年7月取材