インタビュー|転勤、妊娠、出産によりキャリアに変化が 予測不能な人生だからこそ経験を活かしたい ~田中 杏奈さん

転勤、妊娠、出産によりキャリアに変化が
予測不能な人生だからこそ経験を活かしたい

⽔引作家・mizuhiki hare designer・⽔引結び教室「晴れ」主宰/田中 杏奈さん
杏奈さんは、男の子(3歳10ヶ月)のママ。出産をきっかけに広告代理店の営業からなんと水引作家に転身し、作品の販売や書籍の出版、水引教室の開催など、自身の技術を武器に幅広く活躍しています。人生 の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。

仕事を変えた先に子どもとの時間があるから、迷いはなかった

― あなたにとっての人生の転機は?

会社員を辞め、水引作家として独立したことです。

私は以前、広告代理店で働いていました。結婚してから、夫の仕事の都合上、転勤が多くなるので、いつ でもどこでも働けるような仕事をしたいと考えてはいましたが、自分に何ができるのか思いつかず。6年 前から住み始めた東京で転職を考えた時も、結局前職の経験を生かして広告代理店に勤めました。そし て、妊娠、出産を迎え、育休の間に立ち寄った本屋さんで「水引」の本に出会いました。

もともと日本の伝統文化に興味があった私は水引に強く惹かれ、もともとモノづく りが好きだったこともあり、趣味感覚で制作を始めました。その後、水引雑貨のオリジナルブランドを立 ち上げ、作品を販売し始めました。ありがたいことに販売が好調で、面白いと感じましたが、このときは まだ趣味の域を超えていませんでした。復職後は、会社員をしながら副業で水引作品の制作を続けまし た。

転機が訪れたのは、私の作品を見た出版社の方から声がかかったときです。水引の結び方を掲載した書籍 を出さないかとお誘いいただいたんです。家事育児、本業と副業の制作に追われる中、2018年12月、寝る 間も惜しんでどうにかこうにか仕上げた自身初の著書、「水引レシピ」を出版。これがきっかけとなり、 水引作家として活動する事に自信が持て、水引教室の開講や本格的な作家活動など、職業としての広がり がイメージできるようになっていきました。

本業と副業の二足の草鞋(わらじ)も、副業でやりたいことが増えるとますます忙しくなりました。朝はぐずる息子に急いでご飯を食べさせ保育園に送り、ヘトヘトになりながら通勤電車に飛び乗り会社へ出勤。夜は、息子を寝かしつけてから遅くまで副業の事務作業や作品制作など、時間に追われる生活の中、些細なことでイライラしたり、声を荒げてしまうことが増え、笑顔で息子と向き合えない罪悪感に落ち込む日々。本業と副業の両立のために、息子との時間は減っていきました。

 このままではいけないと、生きていく中で自分が大切にしたい事を整理し、それぞれの優先順位を改めて 考え抜いた時、出た答えは「退職して独立しよう」でした。私にとっては、息子や家族との時間を充実さ せる事と、自分にしかできない仕事で自分らしく生きていきたいという想いが、最も大切にしたい事だと 気付きました。全てを一人でこなしていくフリーの活動はとても大変ですが、その先に子どもとの時間が あるのであればと、大きな迷いはなく会社を辞め、水引作家として独立の準備を始めました。そして2019 年7月、ようやく水引作家を本業として仕事をスタートすることができました。教室の運営も始めて講師 として生徒さんを持つようになり、2019年11月、2冊目の著書が出て、現在に至ります。

心に余裕が生まれ、子どもへの声かけにも変化が生まれた

― その後、どんなことが変わりましたか?

独立したことで自由な時間そのものが増えたわけではありませんが、仕事量を調整して自分で時間をコン トロールするようになったことで、心に余裕が生まれたのが、とても大きな変化でした。人生を前向きに 楽しめるようなり、イライラもしなくなりました。気持ち一つでこんなにも大きな変化があるのだな、と 自分が一番びっくりしています。

振り返ると、会社員時代は業務や時間に縛られていることが多く、その切迫感を家庭に持ち帰ってしま い、子どものわがままに対して「できない」とイライラしながら否定的な返答をしていました。それが独立してからは、「一緒にやってみよう」と子どもに向き合えるような返答へ変わっていました。自由な時間の中で、以前よりも子どもとの時間を意識的に増やして、子どもとしっかり向き合うようになりまし た。保育園へ迎えに行った帰りは毎回、家の隣の公園で1時間たっぷり遊んで帰る。子どもが体調を崩し て辛いときには、一緒にいてあげる。些細なことですが、それらはすべて会社員時代には時間に追われて できなかったことです。

今は自宅で仕事をしているのでオンとオフの境目が曖昧になりましたが、いい意味で時間に捉われず、予 定が少しくらい乱れてもいいや、と思えます。その分子どもをゆっくり寝かしてあげられるなど、子ども にとっても、自分の気持ちにとっても、いい影響だと思っています。ママが笑顔でいられるって本当に大事ですね。友人にも以前より顔が生き生きしていると言われます。

ゼロからのスタート、だからこそひとつひとつを丁寧に築き直したい

― これから、やってみたいことはありますか?

実は現在第2子妊娠中で、つい最近までつわりが酷く4か月ほどお仕事を休んでいたんです。始めたばかり の長期的な企画があったのですが、それを中断し、作品の販売サイトや教室も閉鎖しました。またゼロか ら積み上げなければいけない状況です。今までのものがリセットされて辛いという気持ちもありますが、 これをチャンスと捉えて、丁寧にひとつひとつの仕事に取り組んでパワーアップさせたいです。販売作品 や商品のリブランディングをしながら、改めて新作を発表したり、自分の技術を磨きながら教室の内容を 精査して再開していきたいと考えています。

パートナーの転勤により転職し、第1子の育児をきっかけに独立し、第2子の妊娠によって仕事を失う経験 をしました。女性の人生は予測不可能。でも、だからこそ見えてくるものもあるだろうし、経験を活かし たもっと良い仕事も見つかるかもしれない。私も、この経験があったからこそ生み出せるものを発信して いきたいと思います。女性はライフステージの変化で課題が多い分、人生について考える機会も多く、成長できる機会も多いと信じています。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

妊娠・出産・子育てと仕事の両立をする女性の生き方ってすごく複雑で大変ですよね。男性も育児に参加 するようになってきているとはいえ、妊娠出産するのは女性で、子育てに振り回されたり、仕事とのバラ ンスを考えて悩んだりするのも大概は女性。そんな中で子育てがうまくいかない、忙しくて子どもに優し くできない、と悲観してしまうママも多いと思いますが、一生懸命じゃないママはいないし、そんな自分 のことを認めてあげてほしいんです。私も子どもに当たってしまった経験をしたからすごくわかります。 自分はがんばっている、と自分を認めて肩の力を抜いて、時には家事をアウトソーシングしたり、周りに甘えるのもとても大切。自分の時間を作って自分を大切にする事が、子どもや家族の笑顔につながると思 います。私の場合は、苦手で時間がかかってしまう「料理」をよくアウトソーシングしています。効率化 に罪悪感を抱く必要は全くありません!

わたしと街のつながり

この街とのかかわりは?
中央区に住み始めて6年くらい。仕事をする中で中央区での知り合いも少しずつ増えた。保育園のママ友 もできている。

銀座にある、お気に入りの花屋「野の花司」で購入した植物で作ったクリスマスリース

この街の好きなところ
いろんな生き方をしている人が多いところ。特に、意志を持ってまっすぐ進む、チャレンジして輝いてい る女性が多い。
おすすめのスポット銀座の花屋さん「野の花司」。時節に合わせた草木や展示物が魅力的で、ここで季節毎に植物を購入し て、自宅に飾りながら息子と会話するのが癒しの時間です。
わたしの子育て

わたしの家族
3歳10ヶ月(男)、2021年1月出産予定、夫、私。 長男は私に似て作ることが好きな子。ブロックでビルを作ったり線路を作って遊んだり。公園では砂場遊 びが好き。

子育てで大切にしていること
自己肯定感を高めてあげられるような子育てを意識。そのための行動を促しながら見守っている。
子育て生活での失敗談ダブルワークで多忙を極めた頃、心に余裕がなく、イヤイヤ真っ只中の息子に心ない言葉を発してしまい 大後悔。会社を辞めようと決心したきっかけにもなった。

■ 経歴 ■ 田中 杏奈(たなか あんな)さん

関西で広告代理店に勤務した後、夫の転勤を機に上京し、博報堂にて雑誌広告の業務に従事。第1子出産 後の2017年に出会った水引の素材の美しさや、結びの奥深さに惹かれ、創作活動をスタート。活動を始め て2年弱で書籍を出版。水引雑貨の企画・制作、webショップの運営、イベント出展、セレクトショップで の商品の販売をはじめ、企業とのコラボ商品開発、水引教室主宰等、幅広く活動中。

 

―編集後記―
女性特有のライフステージの変化に伴うキャリアチェンジにも、柔軟かつポジティブに向き合っている杏 奈さん。子育て中の女性あるあるが詰まったお話に、共感し、そして立ち向かう勇気をいただきました。 困難が起きてもその経験を武器に。その瞬間は必死でも、振り返ると武器になっていた、そう思えるよう ポジティブに楽しんでいきたいです。