インタビュー|5人の子育てに全力を注いだから今がある。「学校へ行かない」長男の一言が焙煎所オープンのきっかけをくれた~松園 亜矢さん


5人の子育てに全力を注いだから今がある
「学校へ行かない」長男の一言が焙煎所オープンのきっかけをくれた

コーヒー焙煎所オーナー/松園 亜矢(まつぞの あや)さん

松園亜矢さんは、2男3女を育てるママ。17歳の長男を出産されて以降、5人のお子さんの育児を楽しんできたといいます。お子さんたちが幼い頃は「おむつなし育児」や「さらしおんぶ育児」を実践し、その魅力を伝える活動に尽力。「湘南おむつなし育児の会&さらしおんぶの会」主宰者として著書「おんぶで整うこころとからだ」も出版しました。一方、2022年2月にコーヒーの焙煎所「ほんとうにおいしいコーヒー」を江東区福住にオープンするなど、幅広く活躍している女性です。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。

 

おむつなし育児で親子の絆を紡いできた

― あなたにとっての人生の転機は?

長男を出産して母となったことが一番大きな転機です。

おむつなし育児やさらしおんぶ育児の楽しさを知ることができたのも、現在運営する焙煎所を始めたのも、子どもたちがいたからです。

大学卒業後は美容部員として百貨店で働いていました。当時の上司に「3年続かない人間は認めない」と言われ、半分意地で3年勤務(笑)。仕事は楽しかったですが、強い責任感は芽生えていなかったように思います。結婚をして仕事を辞めるとすぐに長男を妊娠・出産。それはそれは可愛くて仕方がなかったですね。その時、自分の子を育てるのは私にしかできないことだと、使命感に似た想いが生まれたんです。もともと子どもが好きだったというわけではないのですが、夫自身が4人兄弟だったことと、最初の子で育児の楽しさを知ったことから、その後4人出産しました。

おむつなし育児を始めたきっかけは、長崎に住む義理の母から布おむつが送られてきたことでした。真四角の布一枚でどうお尻をくるむのか分からなかった妊娠中の私は、布おむつの当て方を検索。すると、布おむつを紹介するあるブログに、「排便の処理は大変だから、トイレでさせるといい」と書かれていたんです。そこに掲載されていた写真には、便器に座っている赤ちゃんの姿。衝撃を受けると同時に「楽しそう」というワクワク感も湧きあがったんです。だけど子育て=大変というイメージも拭いきれなかったため、実際に産まれて大変でなければやってみようと思っていました。

長男が産まれて4カ月頃経った8月のある日、汗をにじませながら母乳を飲む我が子を見て、「こんな暑い中、お風呂以外ずっと紙おむつをしているのは気持ち悪いだろうな」と思ったんです。であれば布おむつの方が肌触りがいいだろうと。布おむつを当てるために出産前に見たブログを再度調べてみると、「寝起きに排尿する確率が高い」と書かれていました。そこで、授乳後に寝入った長男が起きたタイミングでトイレに連れて行ってみたら、ちゃんと排泄が出来たのです!思わず「天才!」と声が出ました(笑)。高揚感と嬉しさでいっぱいになりましたね。

そこから「次はこのタイミングでするかも?」と子どもの様子を見ながらトイレで排泄をさせるようになり、毎回「すごいね」「よくできたね、偉いね」と声をかけていました。母親が心から褒めている言葉って赤ちゃんにも伝わるもので、トイレでするのはいいことだと学習してくれるんですよね。すると子どもも、体で教えてくれるようになっていきました。

実はさらし(注1)おんぶを知ったのも、布おむつを紹介していたブログからでした。ママの肩から赤ちゃんの顔が出るおんぶ方法だから、ママの行動をすべて赤ちゃんが目で見ることができるとありました。これも実践をしてみると本当にその通りで、子どもたちが教えたこともないのに料理の手順や、どこに何があるか知っているんです。

それからおんぶって、私たちの親世代、特に高齢者の方にとても評判がいいんですよね。おんぶして街中を歩いているだけで、大勢の方に声をかけてもらいました。印象に残っているのは一人目の時に青山で出会ったあるご婦人。すれ違ったはずなのに後ろから走ってくる足音が聞こえて、振り返るとその方が「おんぶ姿を見たら懐かしくなっちゃって。子育て頑張ってね」と、エールを送ってくれたんです。子育てを楽しんでいた方ではありますが、両親は遠方で頼れる人が近くにおらず、右も左も分からない初の育児に疲れを感じることもある中、大きな活力になったのを覚えています。

(注1)木綿や麻の糸でできた薄手の織物のこと。吸水性と乾きやすさが特徴の布。

亜矢さんの著書「おんぶで整うこころとからだ」

 

焙煎所は、不登校の子が本音を出せる場所に

― その後、どんなことが変わりましたか?

二人目以降は新生児からおむつなし育児を実践しました。回を重ねるごとに排尿をしたがるタイミングをつかめるようになり、より楽しさを実感するようになって。もっと上手くできるんじゃないかと研究するようになったんです。
おむつなし育児やさらしおんぶ育児という少しニッチな育児法を実践していると、他のママさんから「方法を教えて」と声をかけられ、地元の公民館などで講座を開催するようになりました。少しずつ講習会をする機会が増え、その中で知り合った編集者さんを通じて、育児本も1冊出版させてもらうことに。育児を通して、貴重な経験にも大切な出会いにも恵まれたと思っています。

その後は子育てに奮闘をしていましたが、2022年2月にコーヒーの焙煎所をオープン、4月からはドリンク販売も開始しました。コーヒー焙煎を始めるきっかけをくれたのも長男です。

始まりは長男が小学3年生の頃。学校に行きたくないと言うことが増えました。とは言っても週1くらいのペースだったのですが、卒業式1カ月前になって「もう絶対に行かない」と宣言したんです。当時はまだ彼自身の中で言語化が難しかったので要因もいまひとつ分かっていませんでしたが、後になって、先生が求める答えや正解を言わなければならない学校の風潮が合わなかったようだと分かりました。
決定的だったのが卒業制作のオルゴールづくり。材料で配られた木材の木目の美しさを活かしたかった長男は手を加えたくないと言ったそうですが、先生からは「名前を彫ったら?」「色を塗ってみれば?」と返されたみたいで。先生としては図工を通して作品づくりを学んでほしかったのだと思いますが、自分の要望から遠ざかっていく卒業制作を機に、登校を拒否するようになりました。

長男の気持ちは中学生になっても変わりませんでした。学校には行かず、週に1度プリントを取りに行く日々。でも私自身、不安や心配はあまりなかったんです。もともと小学校入学前から、オルタナティブスクールやテストのない学校に興味がありましたし、必ずしも一律に公教育を受けなければいけないわけでもない。学校に行かないからこそできることをするのもいいんじゃないかと思っていました。
でも、私のような考え方を持つ親御さんは多くはありませんよね。中学の保護者面談で、他にも不登校のお子さんがいるか聞いてみると、「何人かいますが、保健室まで来てプリントやって頑張っている子もいます」と言われたんです。それを聞いて疑問が浮かびました。おそらく不登校の子たちを頑張らせているのは、親の不安によるもの。「中学でつまずいたら高校にも大学にも行けず、就職もできず、自立もできない」と思い、そんな状況に納得ができないんですよね。

長男も含めて、学校に行きたくない子どもたちのことを考えて、行きついたのがコーヒーの焙煎所でした。焙煎過程で一番初めに行う豆の選別って手作業の上に時間がかかるんです。同じ場所に座ってもくもくと進める豆作業は、内向的な子に向いているケースが多い。それに手仕事しながらたわいもないことを話していると、ポロっと本音や弱音が出てきたりするじゃないですか。学校教育や友達関係で悩んでいるとカウンセリングに行くこともあると思いますが、初対面の相手に悩みを打ち明けるのは、子どもにとってとてつもなく勇気のいることです。その点、たまに行く焙煎所で、たまに会う親戚のお兄さんお姉さんのような人との雑談は敷居も高くない。そういう場所を作りたくて、焙煎所を運営することに決めたんです。現在は単発でバイトに来てくれる子が何名かいて豆仕事を手伝ってくれています。

長男はというと、豆作業はあまり好きではなかったようなので、お店の経理と家事全般を担当してくれています。下の子たちのお世話もしてくれて、とても頼れる存在です。振り返ってみると幼い頃から家事に興味を持っていました。0歳、1歳頃からお米研ぎに手を突っ込んできたので、止めることもなく、お手伝い感覚でやらせていたんです。べりべりとちぎった葉物野菜が料理になる喜びなんかも、小さい頃から感じていた気がします。つい「ダメ」とか「まだ早い」と思いがちなんですが、大人が想像するお手伝い適齢期と子どもが手伝いたい時期では差があります。やりたいという欲求にはできる限り応えていたことが、今の長男の姿につながっているように思いますね。段階的に、自然と、家事をしてくれるようになりました。

焙煎と販売を行う「ほんとうにおいしいコーヒー」

 

幸せオーラをまとう人には素敵な出会いがあるはず

― これから、やってみたいことはありますか?

これまでも大きな流れに乗りながら、突発的に何かを始めてきたので、これという目標は掲げてはいないのですが……。最近焙煎所がちょっとしたサロン的な立ち位置になっているんです。コーヒーを飲みに来て、3、4時間滞在していろいろと話し込んだり、ちょっとした悩みを打ち明けてくれたりするお客さんも大勢います。うれしいのが子育て期のママさん。5人の母親ということで、何かしら育児のヒントとなるようなアドバイスをさせてもらうこともあります。
不登校の子のためにオープンした焙煎所ですが、本当に来てほしいのはそんな子どもたちの親御さん。学校へ行かないと決めた子どもたちの悩みの種は、それを理解してくれない親御さんにあることも多い。親御さんは親御さんで、心がざわついてしまい、気持ちのやり場をなくしてしまうこともあります。そういう方たちが集える場所でありたいです。
今バイトで来てくれる子の中には、中高一貫の学校を辞めて、うちで豆仕事をしながらいろいろな人と話しているうちに目標が見つかり、大学受験を頑張っている子もいます。子どもたちにとっても、家や学校にいたくない時にふらっと行ける場所でありたいですし、少しでも気持ちが明るくなってくれればうれしいですね。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

私は出産によって人生が一変して、本当に楽しく子育てをしています。

子どもにとってはただのママなんですけど、おむつなし育児の啓蒙活動などを通して人脈もできました。それも子育てを楽しんできたからこそ巡り合えた縁なのだと思います。子育て疲れをそのまま負のオーラとして出すより、いつも幸せそうでハッピーオーラをまとっている方がいい出会いに恵まれるのではないでしょうか。笑顔を作っていれば心も笑顔になると言いますが、本当にその通り。だから子育ての楽しさを見つけてみてください。私も少しはヒントを持っているのでぜひお店にいらしてください!

雑誌「クーヨン」に掲載された写真。クーヨンにはよく紹介されたとのこと

わたしと街のつながり
江東区とのかかわりは?

江東区福住で、「ほんとうにおいしいコーヒー」という焙煎所兼店舗を運営しています。

江東区で好きな場所。焙煎所周辺

この街の好きなところ
お店にいらっしゃる地元住民の方の多くが、この街に愛着を持っています。生まれた時から78年間在住というおじいさまも。それだけ愛されている街なんだと実感します。深川っ子の皆さんに、この街の良さを教えてもらっています。
おすすめのスポット
福住エリアです。渋沢栄一とも深い関わりがあったり、下水がいち早く整ったりと、歴史的にも重要な場所でもあります。古地図と照らし合わせて街探索をされているお客さんもいらっしゃいますよ。
 
わたしの子育て
わたしの家族

5人の子ども(17歳、14歳、11歳、8歳、5歳)と夫と暮らしています。(※2022年12月時点)

5人のお子さんたち

子育てで大切にしていること
子どもが「やりたい」と言ったことは、多少危なかったりやらせたくなかったりしても、まずは経験させていました。実際にやらなければ分からないこともたくさんありますからね。失敗から学んでくれればいいと思いますし、やってみたら意外とできてしまい、大人のこっちがビックリなんてことも。要求を実現させることが親子の信頼関係を構築することにもつながると思っています。
子育て生活での失敗談
失敗しないと気が付かないタイプかもしれません。失敗から学んでリカバリーを繰り返していくことで、親としても成長できると思います。その時は「失敗した」と落ち込んだとしても、後々活かされない失敗はありません。

 

■ 経歴 ■ 松園 亜矢(まつぞの あや)さん
 新潟市出身。港区在住。化粧品会社勤務を経て、専業主婦として19年間子育てに専念。5人の子どもを育てる。湘南おむつなし育児の会・さらしおんぶの会主宰としても活動。焙煎所「ほんとうにおいしいコーヒー」の立ち上げを機に、仕事の拠点を江東区に設ける。著書に『おんぶで整うこころとからだ』(駒草出版)。
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―編集後記―

子育ても、焙煎所の運営も、心から楽しんでおられる亜矢さん。何事も前向きにとらえる亜矢さんと話をしたくて、お店に足を運んでいるお客さんも多いでしょう。印象に残ったのは「子どもがしたいと言ったことは、まずさせる」という言葉。子育てをしていると「やめて」「ダメだよ」と言ってしまう場面が多くなりがちですが、それはあくまでも親のものさし。亜矢さんのように深い懐で、子どものやりたいことを受け止めたいです。

2022年12月取材