ウェルフェアトレードを広げたい
「自分にできること」を形に
(株)オレンジアップル、(株)ルミエール / 代表 立花 千鶴さん
千鶴さんは小学4年生の男の子と小学1年生の女の子のママ。お子さまの“個性”がきっかけでハンドメイドブランド「blue apple」を立ち上げ、福祉施設に通う人たちと一緒に布製品を作っています。ランチョンマットや体育着入れといった学用品から、親子おそろいのマスクなど生活用品も販売しています。一方で翻訳事業の会社の代表も務め、精力的に活動しています。そこで、千鶴さんの人生の転機がどのように訪れ、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて語っていただきました。
子どもを犠牲にする仕事スタイルにはしたくない!
― あなたにとっての人生の転機は?
転機は2回ありました。1回目は第2子出産後にフリーランスに転身したこと。2回目はコロナ禍で時間のゆとりが生まれたことで始められたハンドメイド事業です。
大学卒業後は損害保険会社で、自動車事故の示談交渉を担当していました。正直、とてもハードな仕事で、特に被害者側との交渉は大変でした。4年間働きましたが、「私はサラリーマンに向くタイプではないのかな」と感じていたので2000年に退職。1年間の充電期間を経て、2001年にテレビやDVDなどの映像の翻訳をする「ルミエール」に入社しました。2010年6月に第1子を出産したのですが、ちょうどそのときは仕事をしながら通訳学校にも通っていたんです。学校を途中で辞めたくなかったので、産後1ヶ月で学校へ復帰して、無事に翌年3月に卒業できました。仕事は産後1年で復帰しました。在宅ワークOKだったので、子育てしながら働きやすい環境でした。でも2013年に第2子を出産したことで、生活パターンの異なる2人の子どもを抱え、スケジュールのやりくりが大変になったので、フルタイムでの仕事はやめようと決めました。1日12時間デスクワークをすることもあり、「仕事を優先させなきゃ」「子どもに待ってもらわなきゃ」というのが嫌だったんです。それで2015年に「オレンジアップル」を立ち上げて独立しました。事業内容はそれまでと同じ翻訳と通訳ですが、フリーランスになったことで子どもたちを優先する仕事スタイルを持てるようになりました。それから4年後に前職のルミエールの社長が引退することになり、私が代表になって引き継ぎました。
それからまもなくして「コロナ禍」がやってきました。在宅でできる仕事ではあるのですが、コロナ禍以降主流となったZoom会議を、わが家の犬が邪魔するんです(笑)。だから私1人でやっている「オレンジアップル」は業務を減らしました。ここからが私の2回目の転機の話です。
長男が、知的達障がいを持っているんです。それがわかってから、私も障がい者の世界をいろいろ知ることができました。障がいのある方々は「できることがあるのに環境が整っていなくて働けない」といった課題を抱えています。収入はかなり低く、それだけでは生活できないレベルなんです。障害年金を合わせてなんとか生活できるかどうかといった人も多くて。だから私は「障がいのある人もない人も一緒になって、それぞれができることをやることによってビジネスを成立させ、障がい者にも適切な報酬を支払いたい」と思っていたんです。通訳業務が減ってたっぷり時間が作れたことで、2020年7月にこの思いを形にして動き始めました。「ウェルフェアトレード」を掲げて、“子どもとママのためのハンドメイドブランド”「blue apple」を立ち上げました。
親子おそろいのマスク(blue apple)
息子との時間が増えた、ウェルフェアトレードを実現できた、充実の日々。
― その後、どんなことが変わりましたか?
就労支援(B型)施設にも快諾いただけて、事業がスタートしたことです。夏の終わり頃に佃にある施設「リバーサイドつつじ」に一緒に物づくりできないか相談したら、すぐにOKをもらえたんです。
最初の数回は施設利用者さんと一緒にやって、あとは社会福祉士が現場をまとめています。ここでは布を裁断しています。裁断された布は、施設を出て縫製チームによって製品化されます。縫製チームは私の親や、子どものクラスメイトのママとおばあ様。私たちの親世代にとっても再び社会の役に立つ仕事に取り組めるよい機会となりました。
私自身は企画と運営をしています。まずはWebショップから始め、実店舗での販売も視野に入れていたところ、小児科の友人の紹介で祐天寺の薬局に置かせてもらえることになったんです!今はまだ利益を求めるよりも、「ウェルフェアトレード」という考え方を社会に広めているところです。障がいを持っていてもできる部分はしっかり任せ、品質もしっかり保ってマーケットに出しています。商品を実際に手に取っていただければわかると思います。
通訳と翻訳事業に加え、blue appleの運営も始まりましたが、子どもとの向き合い方は変わっていません。娘が習い事の間に息子と出かけたり、息子がデイサービスに行っている間に娘と公園へ行ったりして、それぞれの子どもと1対1の時間を作ることも大事にしています。
一方で、独立して大変なことも少し増えましたね。通訳業務は特に、ひとたび引き受けたら絶対に急な予定変更はできません。例えば突然子どもが体調を崩したときに、私がすぐに面倒を看られないときは夫に頼んだり。家族のサポート無しではできないので、感謝しています。
より多くの人ができる作業をふやし、一緒にビジネスを成立させたい
― これから、やってみたいことはありますか?
①障がい者の方々と共に、この事業をビジネスとして成立させたいです。今はまだ収益が出ていないから、工賃しか払えていないんです。だから収益を出して、就労支援施設で働く人たちに還元したいです。
②今「リバーサイドつつじ」で行っている作業は「裁断」で、これは精密性が求められています。障がい者といっても、様々な内容・程度の方がいるので、より多くの人ができる作業工程を増やしたいです。藍染など、自分たちで染めた布を使って製品を作ることにもいつか挑戦したいです。
③自分の時間を増やしたいです。これはもう子どもが自立するのを待つのみです(笑)。夜中に映画やドラマを見るのが今の楽しみです。
― ママたちへのメッセージをお願いします。
頑張りすぎず子育てを楽しめたらいいですね。「○○しなきゃいけない」と自分に課すのは減らした方がいいです。そうすればストレスも増やさないですみますし。これは、自分で作ったルールに苦しめられる友人を見て思いました。子どもって親の機嫌を察するんです。だから、心にゆとりがある子育てをするよう自分でも心がけています。
わたしと街のつながり
この街とのかかわりは?
結婚して初めて中央区に来て、晴海に住んでいます。来る前は、あの「銀座」のイメージしかなかったです(笑)。でも住んでみたらとても住みやすいところでした。
地域との繋がりが好きです。特に長男は地域の人に助けられながら育っています。人懐っこい子なので、店員さんに話しかけて知り合いになってるんです。おかげで、迷子になっても助けてもらえて、お店でジュースをもらって待っていた……なんてときもありました。
晴海トリトンです。地面から水の玉が打ち上げられる、おもしろい噴水があるんです。花壇の手入れもよくされています。子ども向けイベントが多いのも魅力的ですね。あと、住吉神社もいいですよ。周辺の風情ある町並みが美しいです。
わたしの子育て
わたしの家族
長男(2010年6月生まれ)、長女(2013年5月生まれ)、夫(会社員)、私。ミニチュアピンシャー1匹、ミニチュアダックス1匹、金魚メダカその他魚類多数も一緒に暮らしてます。
子どもは2人ともマイペース。コントロールすることは大分前に諦めました(笑)。自己が確立していますね。
個性をのばしてあげています。手がかかることもありますが……。例えば、夕食直前に絵の具遊びをやりたがったらやらせてあげます。内心では「面倒だな」ってぼやきつつ(笑)。本人のペースを尊重しています。
私自身がイライラしているときに、子どもに八つ当たりしてしまって「そんなに怒らなくってもいいじゃん!」と、逆に子どもに注意されたりします。
2児の母。1996年より株式会社東京海上日動(保険会社)、2001年より株式会社ルミエール(翻訳制作会社)にて勤務。2015年に独立し、通訳&翻訳業務を行う株式会社オレンジアップルを起業。2019年に株式会社ルミエールの代表取締役に就任。2020年に株式会社ルミエールの一事業として、“子どもとママのためのハンドメイドブランド”「blue apple」を設立。「blue apple」はウェルフェアトレードを理念に掲げ、障がい者と協力して布製品を製造・販売している。
―編集後記―
「子どもが発達障がいを抱えているから知れた世界」と語っていました。そこから自分でも行動を起こし、形にしていく千鶴さんに力強さを感じると共に、想いに共感しました。また、「『○○しなきゃいけない』と自分に課すのは減らした方がいい」という言葉も印象的でした。「やらなくてもいい選択肢もある」と思うだけで気持ちが楽になりました。イライラを減らした楽しい子育てをしていきたいですね。
blue appleの商品を置かせてもらえるお店を探していらっしゃいます。ご協力できる店舗様がいらっしゃいましたら、インスタグラムかオンラインショップからお声がけをお願いします。