ママ・パパにも幸せをもたらすお店を
たくさんの出会いを経て今ここにいる
ANGEL PATRONAGE オーナー/牧野 裕美子(まきの ゆみこ)さん
裕美子さんは、一人の女の子のママ。墨田区在住で、ギフトショップ「ANGEL PATRONAGE(エンジェルパトロナージュ)」の経営を夫婦で手がけている女性です。夫と人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。
自分の人生を見つめ直したことが店舗運営のきっかけ
― あなたにとっての人生の転機は?
人生の転機は、現在夫とともに営んでいるの運営を始めたことです。
このお店のコンセプトは、「子どもの幸せはママとパパの幸せから始まる」です。出産祝いや贈り物といえば、一般的には子ども向けのものが多いですが、日々育児に奮闘するママとパパの頑張りにも特別な贈り物を届けたいという想いが詰まっています。このコンセプトは、自分の経験がルーツです。私が出産した際、友人から「頑張っているのは裕美子だよ」という言葉をかけてもらったのがとても印象的でした。その時、当たり前のように頑張っている人たちに感謝や応援の気持ちを伝えることの大切さを感じたんです。そのような想いを形にできる場所が必要だと感じ、ママ・パパにもお子さんにも喜んでもらえるギフトを揃えたショップを立ち上げることになりました。
置いている商品は、自分たちが実際に使って良かったものやもらって嬉しかったものがほとんど。商品を選ぶ際には、その商品を作る方々のビジョンやコンセプトも重視しており、必ず直接お会いするかZoomを通じてご挨拶をしています。私たちと作り手さん、お互いのビジョンを共有したうえで、安心して使える・贈れる商品を仕入れるよう心がけています。オーガニックなアイテムや環境にやさしい商品を中心に、ハーブティーや入浴剤、お湯で落とせる子ども用ネイルなどを取り扱っています。私自身がモンテッソーリ講師の資格を持っていることもあり、教具や知育おもちゃなども取り扱っています。
以前は人材派遣の会社で営業職として働いていました。残業や土日出勤も当たり前。仕事には誇りを持って取り組んでいたし、大好きでしたが、このままの生活では結婚をしても家族との時間を確保することが難しいと感じていました。そんな時、取引先のお客様から「仕事も家庭もどっちも両立できる方法があるはず。考えてみるといい」と言われたんです。仕事と家族、どちらかしか大事にできないと考えていた私にとってその言葉は衝撃的でした。自分の人生について考える暇もなかった中で、立ち止まるきっかけを与えてくれたのです。そこから人生を見つめ直すことにしました。
結婚・出産を経て、最初に夫婦で始めようと考えていたのはベビーカフェ。出産した時、赤ちゃん連れゆっくり過ごせる場所が身近にないと感じたのがきっかけでした。「ないのであれば作ってしまおう」という発想です。また、地域の子育て支援センターに行った際に30分間子どもを預かってくれるサービスがあったのですが、そこにはたくさんの人が並んでいました。
子どもはもちろん大切で、愛おしい存在であることは確かですが、時にはママ・パパ自身の時間も必要であり、他のママ・パパたちや社会とのつながりも重要ですよね。そこから、ベビーカフェという形で子どもを専門に見る保育士さんを在籍させ、子どもと親が一緒にリラックスできる場所を提供することができたらいいと思ったのです。モンテッソーリ教育やヨガ、ベビーマッサージなどの講座を定期的に開催し、ママたち同士や地域とのつながりを深める場も作りたいと思いが芽生え、ベビーカフェの立ち上げを目指して動いていました。しかし、その時期にちょうどコロナ禍となり、子どもと接する場所であるベビーカフェを運営することが難しい状況に。そこで、現在のギフトショップの物件が偶然空いていたことから、これを一つのステップとして捉え、新たな方向性でスタートを切ることにしたんです。
また、娘がベビーマッサージを受けた時の出会いも、私にとって大きな転機となりました。マッサージの先生はご年配でしたが、とてもパワフルで若々しい方でした。その先生に「女性として輝きなさい」と言われ、目の前のことだけでなく、自分自身も大切にしながら生きることが重要だと気付くことができたんです。子どもを大切にしながらも、自分自身にも意識を向けることが、人生において大事なのだと感じました。その先生との出会いを通じて、私も誰かの励みや気づきのきっかけになれる存在になりたいと思うようになりました。
以上のようなさまざまな出会いがあったからこそ、今こうした道を歩めているのだと実感しています。
お店を始めることになり、不安よりも期待感やワクワク感の方が断然大きかったのを覚えています。もちろん初めてのことばかりでしたし、お店づくりにおいて大変なこともありましたが、正直あまりの忙しさにそこまで大変だったとは思っていないんです(笑)。
私は前職の時から人との関わりが好きで、人とのご縁を大切にしたいと思って仕事に取り組んできました。当時から会社の名刺でいろんな場所に飛び込むことが楽しく、名刺1枚あるだけで、新たな人との出会いがあることに感謝していました。ただ、その名刺は会社のものであり、自分自身のものではありません。今、自分のお店という看板を持ち、自分が素敵だと思うお客様や会社とつながれることに大きな喜びを感じています。
バイタリティ溢れる先輩女性たちのように、歳を重ねていきたい
― その後、どんなことが変わりましたか?
両国で商売を始めて、新たな発見と初めての経験にあふれた毎日を送っています。ご近所のお店に挨拶に行った時、「10年で新参者」と言われました。歴史のある古き良き町で商売を始めるという緊張感もありましたが、同時に大きなやりがいを感じ、身が引き締まりました。
長く商売されている方から多くのことを学ぶ機会があり、温かいサポートに感謝しています。特に、娘のことをまるで自分の娘のようにかわいがってくれる方々が大勢いらっしゃり、街全体で子育てをしている文化を感じています。こうした空気感は子育て世代にとって、精神面でも大きな助けになると思います。
娘もたくましく成長しています。お店で「いらっしゃいませ」とお客様をお迎えし、幼いながらも接客経験を積んでいます。たくさんの大人と関わる中で、私がいなくても、娘自ら地域の人と交流している姿を見ると感慨深いです。
自分の変化としては、周囲で商売をされている女性たちから良い影響を受けています。20代から80代と幅広いのですが、中でも年齢を重ねられている方はとても綺麗で、人生経験に裏打ちされた強さを持っていて、世の中のことを考えながら行動されている。私がサラリーマンを続けてていたらなかなか出会うことのなかったような方々と接することで、自分の将来に対するビジョンがより明確になりました。彼女たちの姿を見て、自分もこんな風に齢を重ねていきたいですし、いつまでもかっこよさや強さを持ち続けたいと思っています。自分もまだまだ成長できるし、挑戦できると思うと、ワクワクしますね。
夫と一緒にビジネスをするのも、もちろん初めてです。お互いにタイプも得意分野も違いますが、同じビジョンに向かって歩んでいると実感しています。共通のビジョンを持ち、一緒に進んでいくことができるようになりました。これまでとは違う形での関係性を築きながら、お互いがともに成長し、新たな挑戦ができたら嬉しいですね。
どんな経験も財産。そう信じて人生を楽しんでほしい
― これから、やってみたいことはありますか?
次のステップとして、やはりベビーカフェを展開することを考えています。現在のお店では、「ヒーリング(癒し)、バイタリティ(活力)、ジョイ(喜び)を提供する場づくり」を心がけています。ベビーカフェでも、同様のコンセプトを大切にしたいと思います。
具体的には、ヒーリングミュージックの流れる空間やアロマの香りが漂う場所として、癒しをお届けしたい。また、活力を意味する「バイタリティ」についても、ギフトショップではお客様にとって暮らしの活力となるような商品を置いています。そして、ジョイ(喜び)に関しては、その喜びの源を見つけるきっかけを提供することが重要です。お店に来てお話をすることで気が紛れたり、元気になったりしてもらいたい。ふと足を運びたくなるようなお店づくりを意識しています。ベビーカフェでも、この、癒し・活力・喜びの輪を広げていきたいです。
可能であれば、専門分野に特化した講師の方もお呼びして、ママたちが社会とつながれるような場所も作っていくのが理想です。そうした場を通じて、地域と子育て世代のつながりを深めることにも貢献していきたいです。
また夫も私も、子どものいる女性も気軽に、気負わず働ける環境を提供したいという想いを持っています。具体的には、子どもを連れて仕事ができるような環境を整えたり、急なお休みが必要になった場合でも、お店がそのような事態を想定し対応できる体制にできれば、育児と仕事の両立を叶えられると考えています。地域のママさんたちの支えとなり、お互いが支え合う場所として機能することが、私のビジョンです。
― ママたちへのメッセージをお願いします。
大丈夫!、と伝えたいです。何かがうまくいかなくても、最終的にはなんとかなる!ご縁を大事に行動すれば、進むべき方向に進むものだと私は思っています。たとえ失敗や辛いことがあっても、全ての経験は財産。私自身、さまざまなご縁やつながりに恵まれて、人生を歩んでこられたと感謝しています。出会ったすべての人や経験を大切にして、自分の人生を楽しんでほしいですね。
わたしと街のつながり
墨田区とのかかわりは?
住み始めて6年ほどです。新旧融合した街の雰囲気に惹かれました。
人が温かいです。娘に対しても、店舗のスタッフに対しても、皆さん温かく接してくださり本当に嬉しいです。人情味あふれる街ですね。大きな家族に包まれているような安心感があります。
決めきれません(笑)。昔からやっている、あんこあられで有名な和菓子屋さんは娘もお世話になっていますし、よく行きます。でもほかにもたくさんの素敵なお店があります。いい場所がたくさん眠っているので、探索したら絶対に楽しいと思います。
わたしの子育て
わたしの家族
娘と夫と暮らしています。(2024年4月時点)
本人の意思を尊重することです。娘が何を伝えたいのか、何を大事にしたいのか。毎回ではありませんが、娘の言葉には手や足を止めて耳を傾けるよう心がけています。
大人の足だと5分の道のりも、子どもと一緒だと30分くらいかかることってよくありますよね。つい「早く行くよ」と言ってしまいがちですが、余裕があるのであれば道で見つけた花を一緒に見たり、娘が何を感じているのか観察したりしています。
失敗だらけですが、失敗とどう向き合おうか悩んだ時に学んだのがモンテッソーリ教育でした。これを学ぶことで、人には成長の段階があってその時々で大事にしたい感覚や養えるものがあると知りました。そこから自分の失敗や後悔ともうまく向き合えるようになった気がします。ほかの子と比べるのではなく娘自身の成長を見守ろうと、思えるようになりました。
ANGEL PATRONAGE オーナー/モンテッソーリ講師
大分県生まれ。大学卒業後、大手人材派遣会社に入社。親子で使えるオーガニック素材にこだわった出産祝い・ギフトショップの運営や「今しかないこの瞬間」を大切にした親子ワークショップや、親子イベント等を展開。
「人生まるっとお役に立ちたい」という思いから、大手人材派遣会社で1000人以上を担当した経験を活かし、人材・キャリア支援、営業支援、不動産、イベントキャスティング、子育て支援など幅広く従事する。
地域の力を借りて子どもを育てている経験から、ベビーカフェのオープン、地域全体で子育てができる街づくりのために奔走中。
―編集後記―
ご自身の体験から、ゼロからお店づくりに挑んだ裕美子さん。短い取材時間の中でも、聡明さと芯の強さが伝わってきました。教員免許やモンテッソーリ講師資格を活かしてママたちに寄り添い、子どもたちの成長を見守る存在として信頼されている女性です。人情味あふれる両国の街で、地域・社会と子育て世代のつながりを築こうとする彼女の強い意志は、きっとママたちにとっても心強いことでしょう。
2024年3月取材