インタビュー|「完璧な母親像」にとらわれ過ぎていた。人生の棚卸しをして明らかになった真の価値観とは ~青島望美さん

「完璧な母親像」にとらわれ過ぎていた。
人生の棚卸しをして明らかになった真の価値観とは

会社員/青島望美(あおしま のぞみ)さん

望美さんは、4歳の男の子のママ。育児に奮闘する毎日を送っています。一方仕事では、人材系企業の新人育成支援部署のマネジャーとして活躍をしています。2022年3月までは50名ほどのメンバーを牽引しており、マネジメント経験を重ねながらキャリアに磨きをかけてきた女性です。そんな望美さんが大きな転機を迎えたのは、2020年のコロナ禍だったといいます。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。


自己否定ばかりしていたコロナ禍を乗り越えて

― あなたにとっての人生の転機は?

コロナ禍で保育園が休園になった際、仕事と家庭保育の両立に悩み、自分の価値観や判断基準、ひいては自分の人生を見つめ直したことが私の転機です。

政府から緊急事態宣言が出された2020年の4月からの2ヵ月間は、人生で一番辛かったと言っても過言ではありません。育児と仕事のどちらも大事で全力を注ぎたいのに、結局中途半端で終わってしまう。その状況に耐えられなかったんです。
それまでは自分のやりたいことを実現できる環境でした。思う存分息子と過ごすことができた育児休暇。2019年の復職後も勤務時間中は仕事に、退勤後は育児や家事に集中し、メリハリのある生活を送ることができていたんです。でも、コロナ禍で突然、保育園の休園により自宅で育児をすることになり、仕事と同時にこなさなければならなくなった。リモートワークとはいえ、マネジャーだった私は出席するべき仕事の打ち合わせがいくつも入っていたため、多くの時間を拘束されていました。その傍らで、ママと遊びたがる息子。

やがて私は、「自分にとって同じくらい大切な育児と仕事を同時進行することなんてできない」と、行き詰まってしまいました。ネガティブな感情に歯止めをかけられず、さらには自己否定にまで陥ってしまったんです。「仕事も母親業もできない自分なんて、いないほうがいいかもしれない」と、何度も思いました。
そんなとき、職場の中でも特に心を許している上司から言葉をかけられたんです。「そのメンタルは良くない。人生やキャリアを棚卸ししてみなさい」と。それが2020年6月頃のことです。

上司の言葉をきっかけに、「否定せず、前向きになりたい」と思い直し、始めることにした棚卸しの時間。朝4時や5時に起きて、幼少期から今までの人生を振り返りました。人は育った環境や、経験、身近な人との会話から無意識に影響を受けています。そうしたものからくるバイアス(思考の偏り)をできる限り取り除き、ありのままの自分を見つめ直したときに明らかになる、生来の価値観や考え方を整理してみました。
すると、誰からも求められていないのに、私の思う世の中の基準や周りの評価に合わせて、自分の育児や仕事の水準を引き上げていたことに気付いたんです。例えば子育てに関することだと、「食事は手作りしないといけない」とか「テレビや動画に頼ってはいけない」という先入観にとらわれていた。結果、家庭保育と仕事をうまく両立できない自分に「ダメな母親」というレッテルを貼っていたんです。

そこから自分自身を見つめ直したことで、母親としての長所も発見し、自分を受け入れることができました。私はつい何でも0か100かで考え、完璧を求めがちなんですが、子育てだって仕事だってずっと完璧である必要はないんですよね。肩の力を抜いたほうがいいときもある。そのことを認識したら、すごく楽になりました。

 

「育児は女性の仕事」そんな考えに縛られていたのは他ならぬ自分自身

― その後、どんなことが変わりましたか?

自分の価値観や基準を再構築したことで、あらゆる面で変化が起こりました。というか、今でもゆるやかに変わり続けている感じです。

まずは自分のありたい姿が明らかになりました。自分自身が社会に貢献し、自立して生き続けたい。たくさんの人と出会い、いろんな考え方に触れ、仕事でたくさん壁にぶつかって、自分自身を成長させたい。そんな自分の本心に気付くことができました。

息子への接し方も変わりました。棚卸しをする前は、「私が子どもを守らないと」「子どもにとって大変なことは排除しないと」と思っており、それが叶わないと申し訳ない気持ちでいっぱいになっていました。でもその過保護ともいえる環境は息子にとって良くないという考え方もできますよね。
もちろんまだ小さいうちは親がすべきことも多いですが、一人でできることも増えてきた息子の行動全てを私が先回りして考えてしまうのは、彼の自立心まで奪ってしまう。さらに、長い人生で経験するであろう壁や苦難への耐性がなくなってしまうかもしれない。人は、挫折したり、へこんだりしながら、強くなっていくものです。むしろ「へこんで上等」くらいの気持ちを持ってほしい(笑)。だから私が何もかもやってあげる必要はないのだと。忙しいのであれば1日15分、20分でもいいから向き合って会話をしたり、一緒に本を読んだり、嫌なことがあったなら励ましたりすればいいと、思考が変わっていきました。

もうひとつの変化は、夫婦のあり方。「家事・育児は女性がやるもの」という価値観を自分自身がアップデートできていなかったために、夫に遠慮をし、一人で抱え込んでいたんです。ですが、仕事にも力を注ぎたいのであれば、夫の協力は不可欠。週に1度や2度でいいから夜の家事・育児の役割を交代したり、頼る気持ちを持ったりしないと、さっき話した自分のありたい姿には近づけません。ときには家事をアウトソースもして、バランスをとる大切さを感じています。

コロナ禍で落ち込んだときに相談した上司からも、「変わったね、生き生きしてるね」と言われるようになりました。当時は頭が混乱しているのが分かって心配だった、と。棚卸しをして整理ができたからか、仕事での課題に対しても、以前に増して真正面から向き合えていると実感しています。
もちろん、人生を見つめ直して価値観を再構築したからといって、すぐに思考を変えられるわけではありません。だけど、「また以前の自分に戻っているな」とか「ありたい姿から離れていないか」と疑問を感じたら、すぐに立ち止まるようになりました。ペースが狂いそうになったら、立て直す。そうして少しずつ変わっていけばいいんだと思います。

月に1度オンラインでフラワーアレンジメントを習える会社のお花部に所属。「在宅ワークの合間の癒しの時間です」と望美さん

ありたい姿に近づくために、自分の足で歩んでいく

― これから、やってみたいことはありますか?

仕事に関係するものも含めて、実現したいことは3つあります。

まず1つ目が、主体的に生きること。学生時代は、当然のように、結婚を機に家庭へ入るつもりでいました。でも、仕事をはじめて3-4年くらい経ったとき、すごく楽しい!と思えました。結婚後も仕事を辞めずに働き続けていると、「このスタイルの方が私には合っている」と思えたんです。それ以来、自分自身が仕事を通して社会に貢献し、自分の足で人生を楽しもうと決めています。

2つ目が、関わる人々の心を奮い立たせる存在であること。そのために、仕事で接するメンバーには、「あなたならできる」「あなたは可能性を秘めている」と、常日頃から言語化するよう心がけています。誰かに期待してもらえることは、大きな原動力にもなるはず。子どもにも、メンバー同様励ます言葉をかけることが増えましたね。

そして3つ目が、ダイバーシティ(多様性)を意識すること。ありがたいことに女性管理職として働かせてもらっているにもかかわらず、まだまだ私の中から「女性は家庭、男性は仕事」という刷り込みを抜き去りきれていません。少し前までは、そんな自分の考え方に疑問さえ抱かなかったんですよね。今までの常識を見直すというよい機会が今世の中に訪れている中で、自分たちを不自由にするバイアス(思考の偏り)は自分たちの手で解き、1人1人がありたい姿に向かって生きられる世の中にしていけたらいいなと思います。

もう少し先の未来で言うと、今回実践した自分を見つめ直す時間の大切さを、周囲の人にも伝えていきたいと考えています。自分と向き合い、変容していけることが私の強み。その強みを活かし、その人が本当に求めていること、ありたい姿、価値観に寄り添い、明らかにするための支援を行いたい。本当の自分を発見したとき、きっとその人らしい生き方ができるはずだと信じています。

恐らく普通に生きていたら地元の茨城で就職をし、地元の方と結婚していたと思います。だけど、地元を出て今ここにいるのは、さまざまな出会いを経験したから。これからも、日々の出会いや思考の変化を大切にしながら、自分の人生を歩みたいですね。

 

― ママたちへのメッセージをお願いします。

世の中の価値観にも、自分が無意識に作り上げた基準にも、縛られず、本当の自分が実現したいことを目指していきましょう。いろんな家族があっていいし、いろんなママがいていい。育児本の内容を鵜呑みにする必要もありません。まずは自分の考え方に向き合うことから始めて、一緒に頑張っていきましょう。

わたしと街のつながり

中央区とのかかわりは?
2013年まで勝どきに、2014年から晴海に住んでいます。実は中央区に住む前にも、築地や日本橋、八丁堀エリアで求人広告の営業をしていました。当時からとても好きな街でした。

京橋のアーティゾン美術館にて。親子で美術館巡りをすることも多いとか

この街の好きなところ
歴史と近代的な風景が融合しているところです。少し歩くと運河が広がるベイエリアなので、開放感も味わえます。
おすすめのスポット
結婚式を挙げたマンダリンオリエンタル東京、と言いたいところですが(笑)、やはりベイサイドではないでしょうか。レインボーブリッジを望める「ぐるり公園」にもよく行きます。
わたしの子育て

わたしの家族
4歳(男の子)、夫、私の3人家族です。※2022年5月時点

昨年からキャンプを始めた望美さん一家。3人で訪れた蓼科にて

子育てで大切にしていること
「生まれてきてくれて、存在してくれているだけでありがとう」という気持ちを伝えるよう心がけています。また競争環境の中で人と比較するのではなく、昨日の自分と比較し、自分のベストを尽くしてもらいたい。頑張るプロセスを大事にしてほしいです。最近では、自分のことは自分でしてもらうよう促しています。
子育て生活での失敗談
たくさんあります。でも、パターンは大体同じ。できる限り怒らないようにしたいし、子どもからは可愛いママでいてほしいといわれますが、自分に余裕がないと、思い通りに進められないもどかしさから感情的に怒ってしまうこともあります。そんなときはすぐに謝り、「ママはこう思ってしまった。次からはこうしたいけど、どうかな?協力してもらっていい?」と2人でネクストアクションを決めるようにしています。

 

■ 経歴 ■ 青島望美(あおしま のぞみ)さん
会社員。大学卒業後、新卒で人材系の会社に入社。HR領域の営業部を経験し、現在は育成支援部オンボーディンググループのマネジャー。

 

―編集後記―

無意識に築き上げられた価値観、見えない圧力、固定観念……。望美さんがコロナ禍でぶつかった苦難は、経験された方も多いのではないでしょうか。かく言う私もその1人。完璧な育児を目指すばかりに、自分を追い込んでしまっては本末転倒です。そんなときこそ、自分と向き合うことが大切なんですね。望美さんが実践した「人生の棚卸し」は、新たな自分を見つけるための扉かもしれません。「私、困難への耐性はある方なんです」と話す望美さんの目には、希望と強さが宿っていました。

 

2022年5月取材