インタビュー|子育て中も、働く楽しみをあきらめたくない。 家族の協力で得られた、仕事との心地よい距離感〜松崎 あさこ さん

子育て中も、働く楽しみをあきらめたくない。
家族の協力で得られた、仕事との心地よい距離感

株式会社アダストリア アダストリア・イノベーションラボマネージャー/松崎 あさこさん
あさこさんは、5歳の男の子のママ。ファッション業界で酸いも甘いも経験し、現在はファッションカジュアル衣料大手の会社で、サステナビリティ領域の新規事業の立ち上げや運営に邁進しています。どのような人生の転機を経て、第一線で活躍されているのか、これまでとこれからについて伺いました。

一度燃え尽きたからこそ、仕事が楽しいという自分の軸に気づけた

― あなたにとっての人生の転機は?

いろいろな転機があった中で、特に大きかったのは二つです。一つは2011年の東日本大震災、もう一つは出産前に緊急入院したことです。

20年ほど ずっとファッション業界で働いてきましたが、非常に変化の激しい業界なので事業がなくなることも多く、私自身も転職を複数回経験しました。そんな中でも、ブランディングやマーケティングなど目の前の仕事を、いつも全力投球で楽しんでいました。ただその一方で、自分自身の人生設計や学びを深めることはおざなりにしてしまっていたんです。春夏秋冬止まることなく生産、販売し続けるファッション業界の構造の中で、常にがむしゃらに働くことにいつしか疲弊しきってしまいました。

2010年、会社都合で退職しました。ちょうどそのタイミングが結婚と重なったこともあり、新婚生活は燃え尽き症候群のように過ごしていました。自分は何をしたいのだろうかと考えながら、だらだらと転職活動をしていた折に、あの東日本大震災が起きたのです。夫婦ともに実家が被災し、家族とは1週間連絡がつきませんでした。義祖母宅は津波の被害に遭いましたし、一時的にではありますが義母との同居も経験しました。いかに生き延びるか、というのが最優先事項になるような大変な社会状況の中にありながら、当時の私は無力感に襲われていました。「こんなときに、無職の私は何一つ行動を起こせないんだ」と。

その後、ぼんやり自分探しをしていた期間が嘘のように、慌てて派遣会社に申し込み、ファッション業界とは全く畑違いの大手企業で働き始めました。派遣という雇用形態は社会復帰のリハビリとしてはちょうどよかったのですが、仕事内容も時間も枠からはみ出すことを許されない働き方に、満たされない思いを感じるようになりました。そして、半年後に今の会社に声をかけられ転職しました。

結婚して、考えても答えの出なかった自分探しをやめて、一旦は異業種に飛び込んだのに、結局は以前と同じファッション業界で、仕事に楽しく邁進する自分に戻っていたのでした。震災後、日本が復興していくように、燃え尽きていた私自身もこの半年で復興していったと感じています。仕事は楽しく、やりたくてやっていたのだ――その気持ちは今も変わらず、ぶれない軸として自分の中にあることに、ようやく気づきました。

二つ目の転機は、出産前の緊急入院です。当時、現在の会社は合併や統合などで急成長中でした。妊娠中は引き継ぎをしながら仕事を続け、産休前最後の展示会を担当したり、大きなお腹を抱えてプロジェクトを引っ張っていました。ところが、設営も終わってようやく明日から展示会という日の深夜22時、会社で不正出血に気づき、緊急入院することになってしまいました。そのまま2週間以上絶対安静のため入院し、結局、その後もほとんど仕事をできないまま産休に突入しました。

きっと、身体がSOSを出していたんだと思います。これからは仕事最優先の生活を卒業し、新しい生活に入っていくのだということを、身を持って実感したできごとでした。仕事は自分がいなくても誰かが引き継いでくれるけれど、自分の体は、自分にしか守れないんですよね。

 

家族の協力と成功体験の積み重ねが、仕事のアクセルに

― その後、どんなことが変わりましたか?

ふたつの転機を通して、自分中心の考え方から、子どもを中心としながらも、家族や地域などその周りも含めた考え方に変わっていきましたね。特に、1つ目の転機となった震災については、実家との精神的な距離感が縮まりまることにもなりました。震災前までは何か不測の事態があってもどうにかなるだろうなんて思っていましたが、実際に震災のときは駆けつけたくても電車も道路も止まって物理的に行くことができませんでした。その経験もあり、今は緊急時や将来の介護のことも考えるようになりました。

緊急入院を経ての出産後は、働き方が大きく変わりました。時短勤務の限られた時間の中で、誰に仕事を任せるか、仕事の優先順位を考えてどう結果を出すかなど、効率的に物事が運ぶためには自分がどう動くべきかを考えるようになりました。また、まずい状況になる前に事前に上長に相談できるようにもなったと思います。

復帰直後はどれくらいの業務量をこなせるか自分でも想像がつかず、上長も気を遣ってくれてのスロースタートが切れました。一方で、自分がやりたいと思った仕事に手を挙げても、それを全(まっと)うできるのか自信が持てず、仕事に慎重になっていた部分も多かったんです。

復帰して1年経とうとしていた頃、役員が1ヶ月間メディアの密着取材を受けることとなり、担当を任されることになりました。1ヶ月の間は、24時間いつでもディレクターとやり取りをしたり、クイックに社内外の調整をしなければならず、1歳児の子育てをする身には覚悟のいる仕事です。その1ヶ月は独身だと思って打ち込むぞ!という意気込みで、夫にも協力してもらい、なんとか詰め込んでやり切ることができたんです。1ヶ月という期間はあったものの、家族の理解も得ることができ、出産前のようにやりきることができたという成功体験になりました。これを機に、仕事量も徐々に増やしながら、これは難しいかな……というような仕事も、家族の協力の下、こなしていくことができるようになりました。

最近は担当ブランドの取材が増えています。

ローカルなつながりで、息子にとっての彩りある地元にしたい

― これから、やってみたいことはありますか?

今後の人生を考えると、仕事以外で打ち込めることを作りたいです。子どもの負担になりすぎないようにはしたいですが、何か子どものためにもなるものを見つけられたらと思っています。以前はなかった感覚ですが、子どもが生まれてから、ローカルなつながりを大事にしていきたいと考えるようになりました。今住んでいるところが息子の出身地であり、地元になるのだと思うと、この場所で、彼にとっての思い出をたくさん作ってあげたいなという気持ちになるんです。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

コロナ禍ということもあり、これまでの前例が使えない時代になりました。皆がこれまでにないような迷いを持ち、それぞれに答えを探しますが、過去の例からは答えが出てこないことも多いでしょう。子育てに関しても、判断基準がどんどん変わってきます。だからこそ、一人で頑張るのではなく、ママ同士ゆるくつながって、この時代を一緒に乗り越えていきましょう。そして私自身も、そういうことを一緒に考えられるママ友が欲しいです。

わたしと街のつながり

中央区とのかかわりは?
中央区在住。妊娠を機に、子育てしやすいといわれる江東区を中心に家探しをしていたが、たまたま不動産屋で紹介された浜町の物件とその町並みに惚れて引っ越してきた。結果的に中央区も子育てに力を入れていて大正解。区内でも2017年に一度転居を経験。

この街の好きなところ
意外とゆったりしているし、子育てしやすいところ。特に公園はどこも好き。遊具が置いてあるだけのいわゆる都会の公園ではなく、それぞれの公園に個性があり、緑が多い。手入れが行き届いているところばかりで、地域の方々の愛情を感じます。子どもには公園で自然にも興味をもってもらいたい。
おすすめのスポット隅田川テラス新川公園。佃島が目の前、永代橋と中央大橋が見える絶景スポットで、光と風の抜けるような爽快感が心地よい。ここが息子の原風景になるのかと思うとうらやましいです
 
わたしの子育て

わたしの家族
5歳の男の子。配送関係の会社を経営する夫。ネコ(黒猫・9歳)。長男は、スーパーポジティブ。コミュニケーション力の鬼で、大人が見ても羨ましいほど人見知りを全くしない。


子育てで大切にしていること
挨拶と教養。将来グレたとしても、これだけあれば大丈夫だと思っている。また、本人がやりたい、なりたいという気持ちを尊重し、そのための小さな成功体験を積ませてあげたい。その積み上げで、自分が自信を持てるものを見つけて、伸ばしていってくれたらと思う。
子育て生活での失敗談
緊急事態宣言の自粛生活中ずっと家で過ごし、外出したくて発狂する息子を19時ごろに夜な夜な公園へ連れ出していた。生活リズムも崩れてしまったし、友達と会えずに悲しい思いもしていた。彼の気持ちにももっと向き合って、彼のやりたいということに対してもっと色々やりようはあったのかもしれない。

 

■ 経歴 ■ 松崎 あさこ(まつざき あさこ)さん
NYでファッションマーケティングを学んだ後、現地で1年間就業し、2000年に帰国。帰国後、ベンチャー企業を経て、ファッションブランドでプレスとしてのキャリアをスタート。会社の倒産、清算を実に3度経験し、複数社わたり歩くことに。転職活動期間にフリーランス活動も。2010年結婚。しばらく無職で過ごす。翌年、通信大手での派遣を経て、株式会社ポイント(現・アダストリア)に就職。2015年に第一子を出産後、翌年4月に復帰。2019年10月より現職。アップサイクリングブランド「FROMSTOCK」ディレクター、子ども服のおさがりシェアサービス「KIDSROBE」のマーケティング担当を兼任。


・子ども服のおさがりシェアサービス「KIDSROBE」
KIDSROBE ホームページ
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・廃棄在庫のアップサイクリングブランド「FROMSTOCK」
FROMSTOCK ホームページ
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・個人SNS
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―編集後記―
ライフステージに合わせて働き方、生き方を模索しながら変化させてきたあさこさん。ファッショナブルでかっこいい姿の向こうにある、等身大で人間味のあるお話がとても印象的でした。迷いながらも前進し続ける姿に、自分の姿と重ね合わせるママも少なくないのではないでしょうか。