自分の「やりたい」に向き合い続けたからたどり着いた、
ワッフル店オーナーと薬膳コンサルタントの2つの顔。
ワッフルサンドのお店「わつふる堂」オーナー 兼 薬膳コンサルタント/木村 さおり(きむらさおり)さん
さおりさんは、3歳の女の子のママ。月島でキッチンカー販売のワッフルサンド専門店を経営する傍ら、国際薬膳師の資格を生かし、薬膳コンサルタントとしても活躍しています。人生の転機にどう向き合い、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。
(※「わつふる堂」は2022年3月は臨時休業、2022年4月から再開予定です)
16年間働いた、勤務先のレストランが閉店。
「これはきっと運命なんだな」と、自然と独立を決意した。
― あなたにとっての人生の転機は?
前職の勤務先だった、薬膳レストランが閉店してしまったことです。
母の料理が美味しかったおかげか、子どもの頃から食べることが大好きでした。実は小学生の時、パンパンに太っていたんです(笑)。成長するにつれ、日々食べているものが身体にどう作用しているのかに興味を持ち、栄養士になるために神戸の短大に進学しました。
しかし、短大卒業後に就職し調理スタッフとして働いていた個人経営のイタリアンレストランは、勤務時間が毎日6時〜23時までという過酷な環境。重労働に耐えきれず、半年で辞めてしまったんです。その後はフリーターとしてケーキ店などで働いていました。そんな時、製薬会社がプロデュースする薬膳レストランがオープンするという情報が。「栄養」と「薬膳」がどう違うのか知りたいと思い、20歳の時に就職しました。栄養学は西洋医学、薬膳は東洋医学の考えを基にしていると言われます。例えば、旬の食材はその季節に起こりうる症状を緩和する作用がある……など、薬膳の考え方はどれも理にかなっていることに驚きました。これは極めてみたいぞ!と思い、2年後に国際薬膳師の資格も取得しました。
24歳の時に転勤となり、勤め始めた東京のレストランでは、新店舗の立ち上げがミッションに。レシピ開発、調理、接客と、レストラン経営に関することをオールラウンドに経験できました。自分で考案したレシピを食べてもらえる。長時間の立仕事は大変でしたが、職場の雰囲気も良くて仕事には概ね満足していました。その間に結婚し、娘を出産しました。
しかし16年間働いたこのレストランは、2年前に閉店してしまいました。もともと、製薬会社の福利厚生を兼ねた施設だったので、経営方針の転換ということで致し方ありませんでした。
当時36歳、さてこの後どうしよう。製薬会社に残る道もありましたが、食に関われるポジションは少なく、おそらく今までの経験をフルに活かすのは難しい。それなら、いっそ会社を辞めてやりたいことをやってみようと思ったんです。昔から「40歳までに独立したい」という目標があり、今がそのタイミングなんだ、これは運命なんだなと、自然に決断することができました。
やりたいことはいくつもありましたが、まずは昔から憧れていたスイーツのお店を開業したいと考え、ワッフル店に決めました。ワッフルは元々好きだったのですが、よく考えたら売られているのはどれもシンプルなものばかり。フルーツやクリームを挟むことで幅広くアレンジができるのでは?と思い立ち、すぐにワッフルメーカーを購入、試作を開始しました。
甘い系はもちろんのこと、サーモンや卵などおかず系の食材とも相性が良く、メニューのアイデアは次々と浮かんできます。しかし一方で、出店するための物件がなかなか見つからないという問題が……。娘の通っているリトミック教室の先生に悩みをふと相談したところ、そのスタジオのオーナーさんがレンタルキッチンを始めるという情報が!すぐに連絡したところ、幸運にも、スタジオ横にキッチンカーを置いて営業してOKとのこと。
こうして2021年10月、キッチンカー販売のワッフルサンド専門店「わつふる堂」を無事にスタートさせることができました。
現在、営業日は木・金・土曜日の週3日間に限定しています(※2022年3月は臨時休業、4月から再開予定)。まだオープンしたばかりなので、まずは街の人の流れや、来ていただくお客さんの様子を少しずつ把握するためです。メンバーは私のほかに2人で、前職の薬膳レストランで一緒に働いていた元同僚たちです。気心が知れていて、本当に頼りになる2人のおかげで起業することができました。感謝してもしきれないほどです。
前職での経験も、しっかりと今の仕事に繋がっていると感じます。薬膳の「体に良いもの」への意識が、実はワッフルのメニュー開発にも生かされています。原材料の安心・安全にはこだわっており、例えば生地には天然酵母を使用、お子さんも一緒に食べれるように、子ども用ワッフルには生クリームではなく水切りしたヨーグルトでクリームを作っています。
そして週の前半は、フリーランスの薬膳コンサルタントとして、主に前職の製薬会社のお手伝いをしています。健康をテーマとするフリーマガジンに掲載するレシピ作り、季節ごとに起こる症状に関するコラム執筆、そして新しいレストランを出店する際の薬膳監修などをおこなっています。ありがたいことに、前職を退職するタイミングでこのようなお仕事の依頼をいただいたんです。
娘に「おはよう」すら言えず、始発で出勤していた過去。
時間の余裕も、気持ちの余裕も、起業が叶えてくれた。
― その後、どんなことが変わりましたか?
もっとも大きく変わったのは、時間の使い方です。レストランで働いていた頃は勤務開始時間がとても早く、朝4時に起床、家族が寝ている間に家を出て、6時にはレストランに出勤していたんです。当然、娘に「おはよう」と言うこともできず、毎朝寂しい思いをさせていたかもしれません。さらに、小さな頃は頻繁に熱を出して、その都度保育園からの呼び出しが。休んだり早退することで他のスタッフに迷惑がかかることが心苦しく、ストレスになっていました。
現在は、自分の意思で柔軟にスケジュールを組むことができます。仕事をしている時間の半分は在宅勤務なので、娘の早退や急なお休みなどにも余裕を持って対応できるようになりました。そしてなんといっても、起きたばかりの娘に「おはよう」が言えることが嬉しいですね。
また起業には、自分のやりたいことを形にできるという魅力があります。前職のレストランでは「こういう料理を出したいな」と思っても、やはり店の方針に合った料理を出さざるを得なかった。自分の考えているものを具現化したい、最終決定をしたいという気持ちがあったので、起業によってそれを叶えることができ満足しています。
目標は「わつふる堂」の実店舗に、自宅兼レストラン!
「やってみれば、できる」姿を、娘にも見せていきたい
― これから、やってみたいことはありますか?
まずはわつふる堂をもっと街の皆さんに知っていただきたいです。最近では勝どきの公園内のマルシェに出店するなど、少しずつ認知を広める努力をしています。そして、今はキッチンカー販売ですが、今年中には実店舗も持つことを計画しています!実店舗で小さなイートインスペースを作ったり、焼きたてを提供したり、季節のドリンクを提供したり……と、想像するとワクワクします。さらに先の将来では、自宅の1階で小さなレストランを開き、2階で暮らす、というライフスタイルを目標にしています。
― ママたちへのメッセージをお願いします。
ママという立場だと、「子どもがいるから」「まだ小さいから」と、やってみたいことがあっても諦めてしまうケースが多いのではないでしょうか。みなさんの一人一人に素晴らしい能力があるのに、子育てを理由にできないと思ってしまうのは本当にもったいないなと感じます。始めてみると不思議と何とかなりますし、何とかするように自然と動いてしまうものです。「今」より若いタイミングはないので、思い立ったら動くことをおすすめします。
起業という経験は、娘にも良い影響を及ぼしているのではないかと感じています。母が挑戦する姿を見て、「何事もやってみなければわからないな、まずは恐れずに始めてみよう」、そんなメッセージが伝わっていれば嬉しいです。
わたしと街のつながり
中央区とのかかわりは?
28歳で結婚して以来、10年間勝どきに住んでいます。「わつふる堂」のキッチンカーを出店している場所は、月島です。
なんと言っても交通の便が良いところです。勝どき周辺では続々と高層マンションができているため、それに伴ってどんどん便利になっている印象です。最近では、虎ノ門や新橋までアクセスできるBRT(路線バス)も誕生しました。新橋まで出たら、お台場にも簡単に行けますよ!
プラネタリウムのある区民施設「タイムドーム明石」がお気に入りです。よくアニメキャラクターとコラボした企画を開催しているので、子どもも大喜び。プラネタリウムのチケットは、なんと300円(未就学児と、中央区内の小・中学生は無料)なんですよ!
隣接する「あかつき公園」で思いきり体を動かし、築地でランチを食べ、その後プラネタリウムをゆっくり鑑賞……というのが、週末の定番コースです。
わたしの子育て
わたしの家族
同い年の夫と、3歳の女の子 ※2022年1月時点
娘は、歌と踊りが大好きです。私も歌うこと踊ることが好きなので、最近は2人でプリキュアのエンディングを特訓しています!しっかり者の一面もあり、すでに委員長気質があるのか、保育園では給食の時間に座っていない子がいると「もう時間だよ〜」と促すそうです。親もよく注意されるので、ドキッとしてしまいます。
「自分で考え行動できるようになってほしい」と願っているので、できるだけ本人の意思を尊重して、やりたいと言ったことはやらせるようにしています。また自己肯定感を高めるために、褒めるときはたっぷりと褒め、叱って娘が泣き切った後はぎゅっとハグして仲直りすることを大切にしています。
イヤイヤ期ということもありますが、娘はよく泣く子です。泣いている間は声掛けをしても逆上するので、親としては心を無にして泣き止むタイミングを待つのですが……無になり過ぎて、泣き声がノイズキャンセリングになってしまい、「ハッ!声掛けしなくっちゃ」と我に返ることがあります。
1984年生まれ。神戸の短大卒業後、個人経営レストランやケーキ店での勤務を経て、2004年にロート製薬株式会社に就職。2008年に東京へ転勤、会社の福利厚生施設である薬膳レストランの新規オープンに従事する。2020年に同社を退職し、2021年にワッフルサンド専門店「わつふる堂」をオープン
わっふる堂
個人
―編集後記―
自然体で、ご自身の言葉で丁寧に語られるさおりさん。インタビュー中に、「ご縁ですね」「本当にありがたいことです」と何度もおっしゃっていました。周囲の人や偶然の出来事にも感謝を忘れず、一つ一つ信頼を築いてきたからこそ、縁や運に恵まれる方なのだろうなと感じました。そんな縁や運に味方されながら、「やってみたい!」という気持ちに素直に従い、どんどん前に進んでいく……。さおりさんの軽やかさやしなやかさは、ついつい“できない理由”ばかり考えてしまう私にとって、とても刺激的でした。
そしてなんと言っても、「わつふる堂」のワッフルに衝撃!色鮮やかで、まるでフルーツケーキのようなワッフルたち。おかず系メニューも魅力的で、写真を見ているだけでも幸せな気持ちになりました。ぜひ、伺いたいと思っています!
2022年1月取材