インタビュー|やりたくない家事は堂々と手放していい!〜 廣岡 茜さん 

やりたくない家事は堂々と手放していい!
生活サービスでママたちの時間と笑顔を取り戻したい

ライオン株式会社 イントレプレナー(社内起業家)/廣岡 茜さん

茜さんは、5歳の女の子のママ。11年間憧れだったマーケティング部門で洗剤の商品企画に携わってきたところから一転、2019年からは、自身がコンペで提案した食のサービスで新規事業の立ち上げをしています。人生の転機がどのように訪れ、どんな変化があったのか、また今後やりたいことについて伺いました。


顧客視点ではなく、自分視点で生まれた新規事業で思いを形に

― あなたにとっての人生の転機は?

2019年にあった、会社での新規事業のコンペです。そしてその転機には、出産後に私にとって大きな課題となった毎日の食事が関係しています。

2015年の出産が、そこに至る一つのターニングポイントでした。それまでの私は自分の気持ちに正直に生きていて、子どもの頃から「それは私のことだから私に決めさせて!」というのが口癖でした。ところが、出産後はそうも言っていられなくなり、自分の時間も全く取れずかなり気分が落ちていました。そんな中、家以外のもう一つの居場所である会社に早く戻りたいという気持ちもあり、産後半年で職場復帰しました。子育てしながらも働きやすい会社で制度も充実していましたが、私は元の仕事を元のままやりたいと思い、初めからフルタイムで復帰。猛烈に忙しい日々が始まりました。夫の出張が多かったこともあり、家事や育児は私のワンオペ。仕事を終えて家に帰ると掃除・洗濯・料理などの家事に追われ、自分の時間はどんどんなくなる一方でした。かといって、仕事に打ち込む夫に、その熱意を抑えてまでキッチンに立ってほしいとは思っていませんでした。そこで、諦められることは諦めて、便利なサービスを使ってカバーすることにしたんです。

そんな中、一番の課題となったのが食事でした。いろいろなサービスを試しましたが、食事だけは私の価値観や生活にしっくりはまるものがなかったんです。家事代行は他人を家に入れるのが苦手でしたし、スーパーで惣菜のみで済ませるのも私には抵抗がある。外食もファミレスやマックなどいつも同じところになってしまう。料理すること自体が面倒なので、ミールキットも合いませんでした。

どこか、野菜や魚も充実していて、毎日食べられる家庭料理風のおかずを提供してくれるところはないか。そんな思いを娘の通う保育園の前にある飲食店のシェフに相談したところ、我が家の夕飯おかずを作って販売してくれることになったんです。以来、いつも夕食はここでお世話になっていますし、保育園に通うママたちだけでなく、今では単身の方などにも広く利用されています。帰宅後、夕飯準備にバタバタして子どもの話をさえぎるようなことはなくなり、一緒にゆっくり過ごせるようになりました。

それから3年ほど経った2019年、会社の新規事業コンペの募集がありました。そこに書かれた「自分自身の力で解決したいと思える事業アイデアを形にしませんか」という言葉が、私の背中を大きく押すことになりました。思えば、子育てはもちろん仕事でも、これまで自分の価値観を表に出さないようにして過ごしていました。マーケティングという仕事柄、自分の視点ではなく顧客視点で考えるのが当たり前になっていて、無意識のうちにその考え方が自分に染み付いていたんです。そんな私にとって、このコンペとの出会いは「会社で働きながらも、自分個人としての思いをぶつけてもいい。そしてそれ自体を仕事にしてもいいんだ」と思えた、目から鱗のできごとでした。そこで、私が飲食店にお願いして提供してもらっていた食事サービスを題材にしてコンペに出場し、114件の中から採択されました。

自分自身がターゲットユーザーであることが、圧倒的な自信に

― その後、どんなことが変わりましたか?

人事異動で新規事業の専任になり、社内の支援メンバーとサービスの実装実験を始めています。食事サービスを新規事業として始めるようになってから、ズボラな自分を肯定できるようになり、家事を頑張りすぎなくなりました。それから、このサービスを使ってくれているママ友とも本音で話せるようになりました。それまではなんとなく、自分の周りには家事も仕事もうまくやりくりしている人が多いのかなと勝手に思っていましたが、実は料理も掃除も苦手な人が多かったんです。皆家事が苦手なのが当たり前で、うまくやれない自分が特別サボっているわけではないのだとわかりました。

一番変わったことは、仕事のアウトプットへの自信です。以前の商品企画の仕事も好きでしたが、どちらかというとズボラな私は、商品のターゲットにしていたこだわりを持って家事をするユーザー像とはかけ離れていたので、新商品を売り出しても、これならいける!という100%の自信がなく、お客様に受け入れてもらえるかどうか不安でした。でも今は、自分が絶対欲しいと思ったら大丈夫!と思えるくらいに、サービスに対して本当の自信が持てるようになりました。

また、周りに自分の考えをオープンに伝えるようにもなりましたね。以前から自分の考えは持っていたし、周りの友人と共感し合ってはいましたが、今はもっと広く世の中に発信していこうという気持ちがあります。「家事をしない」と堂々と言える私のような人の発信が、家事に追われる日々に我慢している人たちの肩の荷を、少しでも軽くできるのではないかと思っています。

ママたちが“自分”を大事にできるよう、時間を生み出す生活サービスを作りたい

― これから、やってみたいことはありますか?

家事や育児に追われる方々が、もっと“自分”を大事にできる社会をつくっていきたいと思っています。今は食のサービスを立ち上げようとしていますが、これはたまたま自分にとって一番大きな課題が食であっただけで、生活領域にはまだまだ課題がいっぱいあります。子育てをしていると時間に追われる毎日だと思いますが、そんな中でも自分を大事にするには自由に使える時間が必要です。今後は食だけでなく、時間を生み出すもっと様々な生活サービスをやっていきたいです。自分が笑顔でいられることが、家族が笑顔でいられる時間を増やすことにつながると思います。

― ママたちへのメッセージをお願いします。

子育てしているとついつい自分のことを後回しにしてしまいがちかと思いますが、どうか自分のことを忘れないでほしいです。「子どもの笑顔のために自分は何でもする」という考え方も素敵だと思いますが、「自分が笑顔なら子どもも笑顔になるのだ」という考え方も持っていれば、おのずと自分を大事にできるようになると思います。

わたしと街のつながり

中央区とのかかわりは?
居住地は港区だが、子供の遊びや習い事などで中央区へは頻繁に通い生活の一部になっている。現在新規事業のサービス提供エリアを中央区に拡大している関係で、飲食店開拓のために以前にもまして頻繁に出没している。

中央区の好きなところ
便利な都会でありながら、隣町からわざわざ行ってしまうほど子育てしやすい環境が整っているところ
おすすめのスポット
月島第二児童公園。駅からすぐ、砂場や遊具も充実しているのでわざわざ電車で子供とでかけている。こんな公園が近所にあったらなぁと思うくらい好き。

わたしの子育て

わたしの家族
保育園に通う5歳の女の子。営業職で出張が多く超多忙な夫。
5歳の娘はおしゃべりで、ずっと話している。きょうだいがいないので友達と遊ぶのが大好きで、週末遊ぶ予定があるとその約束をずっと楽しみに過ごしている。夫は、勤務体系が不規則で家にいる時間が少ないですが、わずかな時間は娘と触れ合うことを第一優先にしてくれています。夫婦ともに仕事大好きな我が家。無理やり家事シェアするのではなく、任せられるものは便利なサービスにお任せし、貴重なおうち時間は家族笑顔で過ごす時間に!というのが我が家のモットーです。

子育てで大切にしていること
本人の気持ちを尊重し、本人がやりたいということはやらせるし、マナーは別としてやりたくないことはやらなくてもいいと伝えている。例えば習い事も、親がやらせたくて始めたけれど本人にはまらなかったものはすぐ辞めてしまったが、本人がはまっているものは頑張ってやっている
子育て生活での失敗談
忘れ物が多く、娘の保育園の持ち物でもよく忘れ物をしてしまい、届けに戻ることが度々……娘も私の忘れ物、捜し物が多いことはわかっていて、「私が名探偵になる!」と鍵を探してくれたりする。

 

■ 経歴 ■ 廣岡 茜(ひろおか あかね)さん
大学卒業後、2006年にライオン株式会社に入社。配属は北海道で、大手スーパーやドラッグストア担当の営業として働く。3年目の時に社内コンペで衣料用洗剤の商品提案をして優勝。憧れだったマーケティングの部所に異動し衣料用洗剤の商品企画担当となる。2015年秋に産休~育休に入り、翌年の4月に復帰。2019年の社内起業コンペで食のサービスを提案、事業化テーマとして採択され、2020年からは社内起業家として新規事業開発に携わる。

 

―編集後記―
自分の求めるものに素直で、とてもエネルギッシュな茜さん。自分にフィットする食事サービスがなければ、飲食店にお願いしてしまうというこの行動力には脱帽です!そんな茜さんの仕事がご自分の思いに直結するようになり、益々パワフルに目指す社会に向けて加速していっているように感じました。